「好きな時に起きて好きな時に眠れる。好きなものも好きなだけ食べられる。好きなだけ時間を気にせずにブラブラと散歩をしたりとダラダラできる。ふとそう思うと、ああ今までずいぶんと自分を抑えつけていたのだなあとは思いますね」と遠くを見つめた。

　引退後の1日のスケジュールを聞くと「まずトレーニング。そしてブラブラ。そのあとトレーニング。学生の休日みたいな日々ですよ」と言った。それでも一日の中にトレーニングは2回、入っているのが鳥谷らしい。「そりゃあ、あなたみたいな体型になりたくないですから。暴飲暴食して引退して太ったとは言われたくない」と私の中年腹を指さし笑いながらZOZOマリンスタジアムを後にした。

梶原広報（左）と写真におさまる鳥谷敬。ルーキーイヤーから多くの会話を重ねてきた

　過去を振り返らない。いつでも前を向く男。だから引退会見には涙はなかった。現役への未練もなければ、名残惜しくなることもない。やることをやり切った男だからこその背中がそこにはあった。

　阪神タイガースで16年、千葉ロッテマリーンズで2年。2243試合に出場し、2099安打。830打点、353二塁打、138本塁打、131盗塁。記録にも記憶にも残る男だった。

　球場を出ると試合日でもないこの日、駐車場には多くのファンが待っていた。居ても立っても居られず球場に足を運んだ人たちだった。沢山の感動を与えてくれたことへの感謝を伝えるためにずっと待っていた。遠くから手を振りながら鳥谷はこの日一番、嬉しそうな表情を見せた。

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