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「こんな状況でよくやってくれた…」石川雅規の責任感に真中満が涙した日 “小さな大投手”200勝への道《ヤクルト優勝》
text by
真中満Mitsuru Manaka
photograph byNanae Suzuki
posted2021/10/27 17:02
身長167cmという体格で通算177勝(176敗)を挙げている石川雅規。プロ20年目の今季も巧みな投球術は健在だった
決してマウンドから逃げない男
そんな石川ですから、チームメイトとしても監督としても本当にいろんな思い出がありますね……。いちばん苦しかったのは、96敗で最下位になった2017年(シーズン終了後に真中は退任)。あの年、石川は14敗(リーグ最多)したんですよ。正直、当時の石川の立場だったら10敗目くらいで心が折れて、なにかしら理由をつけてファームで調整しようかなと思うはずなんですけど、彼は痛いも痒いも一切言わずに、負けようがなんだろうがとにかくマウンドに立った。あの姿は本当に印象に残っています。
秋口にこちらから「一度抹消するから」と伝えたとき、思わず「石川、こんな状況でよくやってくれたな」と涙ぐみながら話した記憶があります。苦しいときにも決して逃げない、ああいう石川の姿勢が僕は好きですね。10敗もして、チームもボロボロで、普通は投げたくないですよ。でも、そういうところで逃げ出さずにマウンドに立てる、こちらが止めるまでマウンドに立つ石川はまさにエースでしたし、感動的なくらいに素晴らしい選手だと思いました。本当に心の強い、責任感のある男です。
あらためて、石川のような選手がチームにいるというのは大きいですよ。特にプロに入って2、3年は、やっぱり先輩の行動や立ち振る舞いを見て「こういう選手になりたいな」と思うものじゃないですか。そんな中で大ベテランが先頭を切って練習して、キャンプでもブルペンで最初からバンバン投げて。若手は「石川さんでもこれだけやってるんだから、俺たちはこれ以上やらなきゃ勝てないんだろうな」と自然に感じるはず。言葉で伝えなくても、黙々とトレーニングしている姿を見れば雰囲気で伝わるものがあると思います。
個人的な願望を言わせてもらえば、石川には来年と言わず再来年もその次も現役を続けてもらって、なんとか200勝を達成してほしい。バッターの1900本からの100本と、ピッチャーの190勝からの10勝はまったく難易度が違いますし、残り23勝という数字がかなり厳しいのは間違いないですが、今年の投球ができるのならまだ可能性は消さなくてもいいのかな、と。ひとりの石川雅規ファンとしては、200勝という大きな目標を目指して、とにかくやれるところまでやってほしいですね。 <「川端慎吾」編へ続く>
(構成/曹 宇鉉)