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森保監督の《ミスした柴崎岳投入》に思い出す、誹謗中傷されたブラジルの名手… ドゥンガがW杯優勝で「馬鹿野郎!」と叫んだワケ
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2021/10/16 17:01
柴崎岳を送り出した森保一監督。ブラジルでもセレソンで致命的なミスをした選手が誹謗中傷を受けるケースがあった
監督が腹を括った采配を振るい、起用された選手も吹っ切れたようなプレーを見せた。これら一連の出来事が、チーム全体を鼓舞しないはずがない。
日本のオーストラリア戦の内容が完璧だった、とは言いがたい。序盤に先制した後、追加点を奪いにいく姿勢が希薄だった。後半、守備陣の複合的なミスから非常に危険な位置でFKを与え、完璧なキックで追いつかれた。それでも、チームとしての総合力を発揮して辛うじて勝利を収めた。
死ぬまでミスを許してもらえなかった守護神の苦悩
そんな試合において森保監督が柴崎を投入したようなケースは、世界でもほとんど例がないのではないか。
たとえば、フットボール王国ブラジルのメディアと国民は、選手、監督のミスに対して日本以上に厳しい。重要な試合で重大なミスをした選手や監督は、徹底的に糾弾される。
1950年の自国開催のW杯最終戦で、ブラジルは宿敵ウルグアイに引き分け以上なら初優勝を達成するという有利な状況にあった。しかも、後半開始直後に先制。この大会のために建設されたマラカナン・スタジアムを埋め尽くした20万人の大観衆は、悲願達成を確信した。
しかし後半、ウルグアイは快速右ウイングのギッジャがクロスを入れ、MFスキアフィーノが蹴り込んで同点。その後、ギッジャが再び右サイドを突破し、スキアフィーノがゴール前へ詰める。「1点目同様、またクロスを入れてくる」と予想したGKバルボーザが一歩前へ出ると、ギッジャが意表を突いてシュート。これがニアサイドを破り、ウルグアイが逆転した。その後、ブラジルは必死に反撃したがゴールが遠く、まさかの逆転負けを喫してしまった。
この敗戦は「マラカナンの悲劇」と呼ばれ、バルボーザは国内メディアと国民から「敗戦の責任者」とみなされた。「黒人は人間的な成熟度が足りないから、困難な状況になるとミスをする」という人種差別的な声すらあった。
W杯後に就任した監督は、バルボーザを代表から外し続ける。ようやく3年後、南米選手権に招集されて1試合だけ出場したが、それが代表での最後の試合となった。
バルボーザは、死ぬまでウルグアイ戦のミスに苦しんだ。「ブラジルの刑法では、懲役の最長期間は30年と聞く。しかし、私は罪を犯したわけでもないのに、40年以上たっても許してもらえない」と涙を流した。
元鹿島監督セレーゾはW杯のミスを「触れたくない」
1970年代後半から80年代前半にかけてジーコ、ソクラテス、ファルカンと共に「黄金のカルテット」と賞賛された名MFトニーニョ・セレーゾ(引退後、2000~05年と2013~15年に鹿島アントラーズの監督を務め、2000年と2001年のJリーグを制覇)も、W杯での一度のミスを厳しく批判された。