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《CLでマドリー撃破のモルドバ王者》は謎が多すぎる 「地下室に連れていかれると武装警官だらけ」、創設者は元KGB…
posted2021/10/06 17:01
text by
フローラン・ダバディFlorent Dabadie
photograph by
Getty Images
FCシェリフ・ティラスポリ(モルドバ)がレアル・マドリー(スペイン)を破った。
この文章に1つの嘘があります。当ててみてください。
モルドバリーグの絶対王者がチャンピオンズリーグのアウェーマッチで白い巨人たちを倒したのは間違いありません。それは本当です。圧巻のジャイアント・キリングでした。
試合後のここ数日、FCシェリフを紹介する記事が世界中のメディアに溢れています。ただし、ほとんどの記事は試合内容を少しだけ振り返った後に、このクラブの不思議な背景を描きます。
そう、先ほどの質問への答えです。実はこのクラブ、モルドバのクラブではありません。そこが“嘘”でした。
知られざる未承認国家・沿ドニエストル共和国とは
そもそも、モルドバ共和国とは東欧でもっとも貧しい国のひとつ。そのモルドバの東側、ウクライナとの国境沿いに、沿ドニエストル共和国という比較的裕福な分離国家が存在します。しかし、他国からは承認されていない国です。FCシェリフはその分離国家の首都ティラスポリのクラブなのです。モルドバリーグに所属し、この20年間リーグを制圧し続け、UEFAが主催するCLの予選に参戦してきました。
沿ドニエストル共和国は、ウクライナ南部のクリミア地方と同様に、非公式にロシア軍の支配下にあります。1992年に勃発したモルドバとの武力衝突以降、駐留してきたロシア軍はいまや1500人規模です。
モルドバがEUに加盟しようとする動きを見せ、隣国ルーマニアがEUに加盟すると、警戒したプーチン大統領が軍を強化して牽制しきたのです。ロシア語も公用語とする沿ドニエストル、その大統領はクレムリンに操られている人形でしかありません。
サッカーの話に戻りましょう。CLの歴史の中で、独裁国家のクラブや、武器販売をするオーナーのチーム、不透明な資金を投入した企業のチームは存在しました。しかし、FCシェリフの歴史を遡ると、それらのクラブとは次元が違うことが理解できます。
ソビエト連邦の崩壊後、黒海側のドニエストル川はヨーロッパの玄関口となっていました。ウクライナの港町オデッサからティラスポリを経由して、アジアの輸出物が欧州へ流れます。ニューヨーク・タイムズによると「昔から武器や禁止薬物、とりわけタバコの密輸によって、沿ドニエストル共和国の元KGB幹部たちが利益を得ていた」。その元KGB幹部の2人が1997年に設立したのが、FCシェリフです。