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《CLでマドリー撃破のモルドバ王者》は謎が多すぎる 「地下室に連れていかれると武装警官だらけ」、創設者は元KGB…
text by
フローラン・ダバディFlorent Dabadie
photograph byGetty Images
posted2021/10/06 17:01
「謎のクラブ」に思わぬ敗戦を喫した白い巨人マドリー。後半途中から出場したルカ・モドリッチもがっくり
FCシェリフの監督だったフランス人のブリュノ・イルル氏は、クラブのドンであるビクトル・グシャン会長に呼び出された時のエピソードを語っています。
「建物の地下室に連れていかれると、そこは武装警官でいっぱいでした。グシャンはボディガードに囲まれて座り、葉巻をくゆらせていた。まるで(マフィア)映画のようなワンシーンでしたね」
そのグシャンこそ、設立者のひとりである元KGB幹部です。
「フランス・リーグのクラブより給料が高い」
沿ドニエストル共和国について、研究者向けのフランス雑誌に寄稿したオリビア・シャルパンティエ氏は「(首都ティラスポリは)組織犯罪の天国。人身売買(売春)、麻薬取引、盗難高級車の販売、何より武器販売が盛んだ」と書いています。
ソ連時代、この地方にはレッド・アーミーの武器工場が沢山ありました。ベルリンの壁が崩壊してからも、KGBはこの地方で武器の製造を継続し、隣の港町オデッサからアフリカの海賊たちへ売っていて、莫大な利益を上げたそうです。
そして2000年代にはティラスポリのロシア軍基地からイラク、イラン、チェチェン地方などへ武器が流れました。つまり、沿ドニエストル共和国はロシア軍の出稼ぎ国家になったというのです。国際的には未承認国家であり、国際刑事警察機構インターポールも近寄れない「事実上のブラック・ホール」だとシャルパンティエ氏は強調しています。
こういったダークな国のクラブがCLに参加する事実について、私はUEFAの広報部に2度も連絡しコメントを求めましたが、残念ながら回答は得られませんでした。
ただ、誤解しないでください。FCシェリフの予算がマネー・ロンダリングで成り立っている証拠は一切ありません。そもそも、情報の少ない全体主義国家ですが、FCシェリフの資金は比較的透明で、全てのお金は地元の財閥シェリフ社から注入されます。シェリフ社はスーパーや銀行、ガソリンスタンド、携帯電話会社、不動産、ほとんど全てのビジネスに絡んでいます。しかし、公表されているクラブの予算はたったの500万ユーロと非常に小さく、レアル・マドリーの100分の1です。