猛牛のささやきBACK NUMBER
難病と闘うオリックス西浦颯大(22)早すぎる引退「ずっと、プロ野球選手が将来の夢」恩師・馬淵監督も惜しがる才能
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2021/09/30 11:06
9月28日、ウエスタン・リーグ広島戦で引退試合を行った西浦颯大。最終回、1球限りの出場となったが、センターの守備についた
球団から西浦の引退が発表された翌日の25日、京セラドーム大阪で行われた一軍の楽天戦前の円陣で、声出しの担当だった宗佑磨が声を張り上げて言った。
「一緒にやってきた西浦君が引退を発表しました。彼みたいに野球がしたいと思っている若い子でも、野球ができなくなってしまう時があります。いつそうなるか、みんなわからないんですよ。今日怪我してできなくなるかもしれない。全員、そういう熱い気持ちを持って、1試合1試合取り組んでいってください。
今日も絶対に勝ちます!いや僕ら勝たなきゃいけないんです!最後まで諦めず戦っていきましょう!」
その映像を見た西浦は、「ちょっとウルッときましたね。やってくれるな、アイツって(笑)」
翌日、今度は試合前の円陣に西浦が現れ、球場のファンを驚かせた。実は西浦自身にとってもサプライズだった。
その日の朝9時半、一軍のマネージャーからの電話に出ると、電話の向こうに中嶋聡監督がいた。
「おい今から来いよ」
驚いたが、「めっちゃ嬉しかったです」
すぐに着替えて京セラドームに向かった。今年は育成契約のため背番号は「125」だが、昨年まで背負った「00」のユニフォームで円陣に加わった。
「まず、4年間ほんとにありがとうございました。4年って結構短いようですけど、僕からしたら長い時間に感じていて、本当に濃い4年間を過ごすことができました。僕も応援するので、みんなで一緒に、僕のためと思って(笑)、優勝してください。優勝してもらわないと困ります!」
久しぶりの円陣に緊張しながらも、チームメイトへの感謝を伝え、優勝への思いを託した。
「ずっと、プロ野球選手が将来の夢」
病気がわかってから、西浦は常に前向きだった。残酷な現実を真正面から受け入れ、挑み続けた。手術後の痛みは「生き地獄」と表現するほど壮絶だったが、あえてその手術直後に強がってピースをした写真をSNSに投稿した。ファンに心配をかけたくない。同じように闘っている人の励みになれば。何より、野球を諦めたくない。そんな思いが伝わるから、西浦は多くの人々に応援された。28日のウエスタン・リーグ広島戦も、西浦の引退試合となることが発表されるとチケットは即完売した。
次の道はまだ決めていないが、野球に携わりたいと考えている。前向きで好奇心旺盛な西浦のことだ。きっとまた打ち込める道を見つけられるに違いない。
だが幼い頃からの夢はずっと心の中に在り続ける。「この先の夢は?」と聞かれた西浦はこう答えた。
「僕はずっと夢はプロ野球選手なんです。まあ現実的には無理なんで、心の中で、ずっと、プロ野球選手が将来の夢です」
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。