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“人種差別バナナ投げつけ事件”にも何食わぬ顔で… ダニエウ・アウベス38歳のタフすぎるメンタルと最強SB伝説
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/08/29 17:01
バルサ時代とセレソンでのダニエウ・アウベス。サイドバックの概念を大きく進化させた人物の1人だ
2018年5月、フランス杯決勝で右足の靭帯を損傷したのである。全治約半年と診断され、ロシアW杯でプレーできなくなった。そのW杯でセレソンは、準々決勝でベルギーの前に敗退。国内メディアの多くが、優勝を逃した大きな要因の1つとしてダニエウ・アウベスの欠場を挙げた。
2018-19シーズンもフランスリーグで優勝したが、欧州CLでは前年同様、ラウンド16でマンチェスター・ユナイテッドに敗れた。
名門サンパウロで「サイドバックのナンバー10」に
このシーズンは怪我による欠場が多く、PSGは契約延長をオファーしなかった。国内外の多くのクラブからオファーを受けたが、2019年8月、母国の名門サンパウロと3年契約を結んだ。
サンパウロのホームスタジアムに4万4000人のサポーターを集めて入団セレモニーが行なわれ、クラブの会長から背番号10を受け取って喝采を浴びた。キャプテンの重責を担い、MFもしくは右SBとしてプレーしている。
今年の5月下旬に右膝を故障し、6月13日から7月10日までブラジルで開催されたコパ・アメリカを欠場。しかし、6月末に故障が完治したことから、U-24ブラジル代表のアンドレ・ジャルディン監督が7月下旬からの東京五輪への出場を打診した。「彼は世界の誰よりも多くのタイトルを獲得しており、どうすれば勝てるかを熟知している。若い選手たちにとって、彼のプレーはもとより、その存在自体が大きな利益となる」と考えたからである。ダニエウは「喜んで出ます」と即答した。
そして、故郷バイア州の打楽器「チンバウ」を携えて成田空港に降り立ち、宿舎でチームメイトとサンバを奏でてリラックス。キャプテンとしてチームをまとめ上げ、攻守に活躍して優勝の立役者の1人となった。
W杯予選に招集、39歳でのW杯制覇を目指して
これまでに獲得したタイトルは、ワールドユースと東京五輪を加えると43に及ぶ。その内訳は、クラブで37、代表で6。バルセロナ時代にクラブW杯3度、欧州CL3度、スペインリーグ6度など23ものトロフィーを手にし、ブラジル代表でも2007年と2019年のコパ・アメリカなどを制覇した。その豪華なコレクションに、新たに五輪の金メダルが加わった。
セレソンのチッチ監督も彼の東京五輪での働きを高く評価し、9月上旬に行なわれる2022年W杯南米予選3連戦へ招集した。
今後、クラブで好調を持続しながらセレソンでの激しいポジション争いに勝ち、南米予選突破、そして来年末のW杯での優勝を目指す。
これまで、W杯では2010年大会と2014年大会は不本意なプレー内容でチームも優勝を逃し、2018年大会は大会直前の故障で無念の欠場。それだけに、2022年大会に懸ける思いは強い。「何が何でも出場して、今度こそ世界一になる」と意気込む。
このタイトルが、彼のキャリアにおいて最後のものとなるのかもしれない。W杯まで1年余り。この恐ろしく若々しいベテランは、まだまだ走り続ける。
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