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「彼はまだキッズのようだったから…」石川祐希に世界最高セッター・ブルーノ(ブラジル主将)が贈った言葉《バレー五輪秘話》
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJMPA
posted2021/08/27 11:05
8月3日の準々決勝、日本-ブラジル戦後に座り込んで涙を流す石川祐希に声をかけたブラジル代表ブルーノ
「もっと自分も強くなりたい。こういうチームで活躍したいという思いを持ったのは大学1年の時でした。一番影響を受けたのはあの時でした」
かつて石川はそう話していた。モデナで受けた刺激が、後に石川をイタリアへ向かわせたのだった。
石川が表現したかったリーダーシップ
大学卒業後はプロとしてセリエAでプレーすることを選び、徐々にレベルの高いチームへの移籍を勝ち取り、「個」を磨いてきた。ここまでの成果が結実したのが東京五輪だった。
ブラジル戦の2日前にあった予選リーグ最終第5戦のイラン戦では、日本が29年もの間、突破できずにいたベスト8の扉をこじ開けていた。ここ10年間にわたってアジア最強の座に君臨してきたイランに対し、勝った方がベスト8に進むという試合で、日本は3-2(25-21、20-25、29-31、25-22、15-13)で競り勝ったのだ。
そこで対戦したのが、イランの頭脳であり、世界のベストセッターの1人であるマルーフ(ミルサイード・マルーフラクラニ)。石川が18-19シーズンに所属したシエナ時代のチームメートだ。
石川には、17-18シーズンを終えた後に複数のチームからオファーが来たが、その中からシエナを選んだ決め手の1つがマルーフだった。
国際大会で日本が打ちのめされてきたイランの司令塔という存在が、石川の好奇心をくすぐったのは間違いないだろう。シエナではシーズン途中で監督が交代するという難しい状況をともに戦い抜いた盟友でもあったマルーフ。東京五輪でマルーフがいるイランに日本が競り勝ったのは、石川の「成長」の証でもあった。
イランを破り、ベスト4を懸けて挑んだブラジル戦で、石川は、強打と技ありのスパイクなどで両チーム最多の17得点を稼いだ。スパイクのモーションからトスを上げる「フェイクトス」でも魅せた。苦しい時には豪快なジャンプサーブでエースを奪い、仲間を鼓舞した。雄叫びを上げ、力いっぱいこぶしを握る姿は自身が表現したかったリーダーシップそのものだった。