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“東京五輪に出られなかったキャプテン”篠山竜青33歳が味わった絶望と本音「チビはもっと頑張らないといけなかった」
posted2021/08/20 17:01
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
Takuya Sugiyama
フィリピンのホテルの部屋にいた。外からドアをノックする音が聞こえた。
あぁ、来ちゃったか……。
その音が、4年間の戦いに終わりを告げるものだとすぐにわかった。
「ヘッドコーチが、呼んでいます」
フィリピンで開催されていたアジアカップ予選の最終戦が終わった直後に、フリオ・ラマスHC(ヘッドコーチ)から説明があったからだ。この大会を戦ったメンバーのうち、東北での最終選考合宿前に落選する2名については、「日本へ帰国する前に通知する」と。
篠山竜青はもう32歳になっていた。日本代表のなかでもベテランと呼ばれる立場だ。アジアカップ予選前の合宿から大会中のゲーム形式の練習での序列や、実際の試合での起用法をみれば、4年間一緒に戦ってきたコーチがどのような方針を持っているのかは感じ取れていた。
部屋のドアをあけるとサポートコーチ兼通訳の前田顕蔵(秋田ノーザンハピネッツHC)がいた。何とも言えない表情を浮かべているように見えた。まぁ、誰もやりたくない役回りだ。
「ヘッドコーチが、呼んでいます」
うなずいてから、ラマスHCの元へ向かった。
「リュウセイはここまでよく頑張ってくれたから……」
そんな言葉をかけられたのは覚えているし、ラマスHCがメディアに語っていたように、身長を基準に篠山を外すことにしたという理由も聞かされた。「世界規模の大会に臨むのであれば、PG(ポイントガード)というポジションに180cm以下の選手を2人も置くのは……。世界との競争をしていくのであれば、もっと身体能力の高く、もっと身長の高い選手たちを選ばないといけない」というのがラマスの説明で、PGで180cmに満たない2人のうちの1人として178cmの篠山を外すことにしたという。
「あの瞬間、肩の荷が下りたんです」
ただ、具体的な話の内容はあまり覚えていない。頭が空っぽだったし、その種の説明はオブラートに包んだ言葉でなされるものだからだ。むしろ、脳裏に焼き付いているのは、おじいちゃんのような優しさを見せるアルゼンチン人指揮官の瞳だ。明らかに潤んでいるように、篠山の目には映っていた。