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「引退試合はオレの性に合わないよ」天才・落合博満44歳の“涙なし”現役ラスト打席…試合後の意外な「神対応」とは?
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph bySankei Shimbun
posted2021/09/06 17:02
1996年オフに巨人から日本ハムに移籍した落合博満。当時43歳だったが3億円の2年契約と期待されていた
10月にはメディアで「今季限りの引退」が報じられ、最終戦前には上田監督から指名打者での先発出場を打診されていた。このロッテ戦で有終の一発を打てば、12球団すべてから本塁打を放ったことになる記録がかかっていたが、落合はその申し出を断りベンチスタート。「引退試合や派手なセレモニーみたいなものはオレの性に合わない」という己のこだわりを最後まで貫いた。チームが1対4リードされた5回表一死、「週刊ベースボール」98年10月26日号の写真を確認すると、代打で登場した背番号3は全盛期と同じように素手でバットを握り、“神主打法”と呼ばれた独特の構えで打席に立っている。
最多勝のタイトルを狙う、20歳年下の相手エース黒木知宏は全球直球勝負で、満身創痍の打撃の職人は3球目の141キロのストレートを打って一塁ゴロに倒れる。ベンチに戻る際、微かに笑みを浮かべる背番号3。19年前に代打出場からスタートした25歳の無名のオールドルーキーは、三度の三冠王という前人未到の金字塔を残し、45歳を目前にバットを置いた。通算2371安打、510本塁打、1564打点の大打者としては異例のセレモニーも涙もない静かなラストゲーム。「お疲れさん」といつもと同じようにロッカールームをあとにすると、落合は意外な行動に出る。球場出口で出待ちしていたファンがいる柵前まで歩み寄ったのだ。「ありがとう落合」という横断幕を掲げる男性もいる中、彼らと握手を交わして回り、稀代のスラッガー落合博満の「最後の1年」は終わりを告げた。
(【前編を読む】「清原とオレで…長嶋さんの悩む顔を見たくない」“日本人初の1億円プレーヤー”落合博満のオレ流移籍人生《43歳でも3億円》 へ)