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表彰台で喜ばない20歳…Moto2で驚速の進化を続ける小椋藍に、GPライター遠藤智が誰よりも期待をかける理由とは
posted2021/06/09 11:00
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
Moto2クラスに出場する小椋藍は、いま、僕がイチバン期待しているライダーである。
先日バルセロナで行われた第7戦カタルーニャGPでは、ラスト3周で転倒しリタイアに終わったが、今年になってイチバンのレースだった。
リタイアに終わった彼の表情を撮ろうと僕はピットに向かった。レーシングスーツの傷み方はそれほどではなかったし、それほど激しい転倒ではなかったのだろうということが推測できた。小椋は、青山博一監督、そしてチーフメカニックのノーマン・ランクに何かを説明している。おそらく、どういう状況で転んだのか。そしてどういう走りだったのか、ということを。
ミーティングは長かった。それは、走り切れなかった残り3周に対する小椋の思いの表れでもあったのだろう。いつもなら、次のレースを撮影するために僕はピットを離れることになるが、この日は、アゼルバイジャンでF1があり、放送時間の調整でMotoGPクラスの決勝レースが先に行われ、Moto2クラスが最後のレースになっていた。だから時間はあった。
好レースにも悔しさが残ったわけ
ミーティングが終わり、僕は一言、彼に伝えたい言葉があった。それは「今年イチバンのレースだったね」というものだった。ミーティングを終えてピットを出てきた小椋藍に、その言葉を伝えると、小椋は「はい」と言ったが、目を合わせずチームのトラックに消えた。
転倒の状況はこうだった。予選7番手だった小椋は序盤やや出遅れるが、そのポジションを回復し、6位を走るアウグスト・フェルナンデスを追った。その差をじりじりと縮め、ラスト3周の4コーナーで抜く。しかし、止まり切れずにオーバーラン。グラベルに飛び出し、そこで転んだ。
一瞬、小椋に抜かれ7番手に落ちたアウグスト・フェルナンデスは、最終的に5位でフィニッシュしている。つまり、チェッカーを受けていれば小椋は少なくとも5位になれていた可能性は高い。しかし、彼が悔しがったのは5位を逃したことではない。