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引退どころかカタールW杯出場へ意欲 超人ブッフォン43歳が残した数々の伝説と“あるある”
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/06/02 17:00
今季限りでユベントスを退団するブッフォン。様々な話題振りまく43歳のGKはこれからどこへ向かうのか。
今季起用されたゲームでは1度も負けなかった
試合後、スクデット連覇を祝うセレモニーの際はスコールが降り注ぎ、こちらも帰路にずぶ濡れになりながら、天も泣いていると感傷的になったことを思い出す。そのときは、ブッフォンが第一線から退く可能性は高いと考えられていたのだ。
しかし、ブッフォンは感動のお別れゲームから2カ月も経たないうちに、パリSG入団を発表した。俺はまだやれる、新しい挑戦だと息巻いた。
騙されたと苦笑いしながら、ブッフォンが常人のスケールでは測れない超人であることを思い出した。
2019年の夏にユーベが曲者サッリを新監督に迎え、ブッフォンがユーベに出戻ったとき、背番号1はシュチェスニのものだった。そして盟友ピルロが監督に就任した今シーズンも、ブッフォンは12歳年下の正守護神のサポート役をやるのだろうと誰もが考えていた。
しかし、ブッフォンの考えは少し違っていた。
チーム精神を重んじて口にこそ出さなかったが、セカンドGKの立場に甘んじるつもりはさらさらなかったのだ。出戻りでも、背番号1を譲っても、正守護神としてプレーしたいと常に考えていた。
43歳にして、何と貪欲なのだろう。
今季からユーベの新監督に就任した1つ年下のピルロは、公式戦14試合でブッフォンを先発起用した。内訳は12勝2分、起用されたゲームでは1度も負けなかった上に、6度もクリーンシートを記録した。
格下の相手どころか、CLでのバルセロナ戦や仇敵インテルとのコッパ・イタリア準決勝、セリエAでもナポリやサッスオーロといった強敵との難カードで、ブッフォンはきっちり仕事をしてみせた。
22年の時を超えてキエーザの息子とタイトルを獲得
アタランタとのコッパ・イタリア決勝戦でも、円熟のプレーを見せた。
試合開始3分で距離5mから打たれたDFパロミノのシュートは倒れ込みながら右足で弾いた。25分に右サイドからMFフロイラーが打った角度のない対角シュートは、瞬時に枠をわずかに外れると見切って伸ばした右手をかすかに引いた。無用なCKを与えないための刹那の判断力と横っ飛びしながら首を後方に捻って外れるボールの弾道を確認する所作の丁寧さは、GKのお手本という他ない。
試合後、決勝ゴールをあげた23歳のFWフェデリコ・キエーザが、国営放送のマイクに向かって語った。ブッフォンは、彼にとっても特別なチームメイトだった。
「試合前に彼へ言ったんだ。『ジジ、俺の親父とこのタイトルを勝ったことがあるんだろ。だったら、今夜は俺と一緒に勝たなきゃダメだ』って」
1999年、パルマの名アタッカーだったエンリコ・キエーザとコッパ・イタリアを制したGKブッフォンは、22年の時を超えて、同じタイトルをその息子のフェデリコと勝ち取るという離れ業をやってのけたのだ。