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乾貴士の活躍で小都市エイバルと日本がつながった縁… 降格も“ロマンあふれる町とスタジアム”の光景は美しかった【激写】
text by
中島大介Daisuke Nakashima
photograph byDaisuke Nakashima
posted2021/06/02 06:00
エイバルの本拠地イルプア。彼らがリーガ1部の舞台に戻ってくることを期待したい
乾の活躍によってエイバルと日本がつながった
日本人選手が最高額の移籍金で来る! ということを知っているファン達も、この時点では誰もプレーを見たことがなく、隣に座っている乾の姿に気づいていなかったのかもしれない。
そういえば、カメラ片手に散策している間、何人もの人に、"お前が日本人選手か?!1杯ご馳走してやるよ"と声をかけられたのも楽しい思い出だ。
日本人を見たことも無かったエイバルの人々と、エイバルという町の名など聞いたことも無かった日本人のサッカーファンが、乾の活躍によって繋がった。その最初の一歩を記録していたのだと思うと感慨深い。
リーガ1部クラブの中では最低ラインの予算で、毎シーズン残留することが目標と言われるチームが7季に渡って1部を戦ってきたことがミラクルだったという見方も多い。
ただスタジアム周りに集まるファンの熱狂は凄まじく、小さなスタジアムだからこそ、充満した彼らの熱気は確実に選手を後押ししていた。
コロナによって無観客で試合が行われたことが、チームが今季最下位で終わった要因の1つだったと思うのは、エイバルの人々に魅了されたが故のサポーターの影響力への過剰評価だろうか。
もちろんエイバルだけが無観客で戦ったわけではない。全てのチームが同じ条件で戦ってきた結果だとは分かっている。
それでも、欧州スーパーリーグ構想を筆頭に、サッカーの名を借りたお金の側面ばかりが取り上げられる昨今、久しく目にすることができなくなっていたサッカーという名のロマンをエイバルで感じていたことは確かだ。
乾、武藤が去ることも既定路線とされている中で
不振にあえぐチームの中で12ゴールと主砲としての役目を全うしたキケ・ガルシアのオサスナ移籍が早々と発表された。また6シーズンに渡りチームを率いたメンディリバル監督の退任も決まり、乾、武藤の両日本人選手がこのチームから出ていくことも既定路線だ。
町を囲む山の向こうに日が沈んでゆくように、1部リーグでの輝かしい日々は一旦終わってしまった。しかし、この7シーズンに渡る奮闘の中で、スタジアムは増築され、コアなサポーターも根付いた。
近隣の強豪チームを応援するしかなかったかつての住民も、今度は再昇格を必死に後押しするはずだ。
シーズンを通して無観客試合が行われた今季。来季はなんとか、笑顔あふれるスタジアムの光景が戻ってきていて欲しい。
今でも、取材用のリュックにはこの取材中に頂いたエイバルのピンバッチを輝かせている。このリュックと共に、各地を訪れるのが早くも待ち遠しい。