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「お前は戦力に入っていない」実家で父親から告げられた戦力外通告 “2世”長嶋一茂のプロ野球人生はこうして終わった 

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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posted2021/05/17 17:01

「お前は戦力に入っていない」実家で父親から告げられた戦力外通告 “2世”長嶋一茂のプロ野球人生はこうして終わった<Number Web> photograph by KYODO

1993年に巨人にトレード移籍した長嶋一茂。写真は同年4月10日、先発出場し2度目の打席に向かう一茂(右)と長嶋茂雄監督

 この時期、巨人は大型補強時代へと突入。大森剛、吉岡雄二といった二軍のタイトルホルダーでも一軍での出場機会に恵まれず、井上真二はイースタン史上初の通算100本塁打という記録を作っている。特別扱いされる一茂の存在が彼らの成長を阻んでいるという報道があったのも事実だ。結果がすべてのプロ野球。95年は一軍出場なしの崖っぷち。自分なりにあがいて苦しんで、気が付けば30歳。ついにプロ9年目の96年シーズン、長嶋一茂は「最後の1年」を迎えることになる。

「暴言事件」「パニック障害」……

 原辰徳は前年限りで引退。新助っ人の三塁手ジェフ・マントを獲得するも、開幕から21打席ノーヒットと極度の打撃不振で一茂に出番が回ってくる。本拠地の中日戦で、約1年9カ月ぶりの先発サード起用に横っ飛びの美技で応え、ガルベスの完封勝ちに貢献した。だが、すべてをぶち壊す事件が起きる。5月13日、バント練習を命じた土井正三コーチに対し怒りが爆発。「くだらねえバント練習やらされちゃったよ! 何様のつもりでやってんだ! いらねえ、あんなヤツは!」なんて不満をぶちまけ、翌14日に罰金50万円の処分を課せられる。

 さらに追い打ちをかけるようにその夏、知人宅で神宮の花火大会を見物していたら、体が激しく揺れるような感覚に襲われた。その1週間後、食事中にトイレで倒れ、病院に運び込まれる。医師によると「過呼吸症候群」で自律神経をやられた可能性が高いという。自著『乗るのが怖い 私のパニック障害克服法』(幻冬舎新書)によると、発作の翌朝、川崎のよみうりランドにある二軍練習場に向かおうと、車に乗り込んだ途端に息苦しさを覚える。ヨタヨタと車を降り、歩きながら携帯電話で二軍マネージャーに自分の症状を伝えた。病院で「パニック障害」と診断され、毎朝の練習にも行くことができない。もはや野球どころではなかった。

父から息子に「お前はもう来季の戦力に入ってない」

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 逃げるように箱根の山荘にこもり、ひたすら本を読む日々。この年、長嶋巨人は最大11・5差を逆転する“メークドラマ”を成し遂げるが、なんとか野球の結果を知ろうとテレビをつけても10分も見ていられない。

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