もともとドラフトでは西武とヤクルトの争いと言われる中で、急転直下の巨人逆指名。六大学新記録の23本塁打を放ったドラ1スラッガーに対して、まだ開幕前にもかかわらず報知新聞社から『松井と夢のTM砲だ! 高橋由伸 新世紀へかけろ大アーチ』なんてやたらとハイテンションの雑誌も発売されている。学生時代のバレンタインデーにはチョコを持った女子が教室に殺到して、拡声器を持った教師がそれを警備した伝説を持つ男は、女性誌など野球メディア以外からの注目度も高かった。

桐蔭学園（神奈川）から94年慶応大に入学。1年からレギュラーとして活躍した　©BUNGEISHUNJU

　98年1月の自主トレで風邪を引きキャンプ二軍スタートとなったが、2月中旬には一軍昇格。すぐさま『週刊ベースボール』では、「天才・高橋由伸を解剖する」という特集が組まれ、見出しから「頭も技術も柔らか。その巧さは力強さを上回る次元の違う巧さ。大変な打者の出現だ！」と大絶賛されている。「高校、大学でのキャリア申し分なし。マスク申し分なし。性格良し。冷静さもありそうだ。ドラマ性も十分だ」なんつってジャパネットたかたの通販番組のような褒め言葉の連発。柔らかい打撃だけでなく、チーム屈指の強肩を武器にした外野守備も評価は高く、初めての紅白戦では初アーチを含む5打数4安打5打点と期待以上の大活躍を見せる。

夢の3番清原（30歳）、4番松井（23歳）、5番高橋（23歳）

　そして98年4月3日、23歳の誕生日に迎えた野村ヤクルトとの開幕戦。慣れ親しんだ神宮球場で「7番右翼」でスタメン出場を飾り、第3打席でサウスポー高木晃次の初球を捉えライト前へプロ初安打。次打席でプロの洗礼となる初死球を受けるが、背番号24は怯まなかった。第3戦では川崎憲次郎から左中間へ勝ち越しのタイムリー二塁打を放つなど、チーム開幕3連勝の原動力に。東京ドームに7万人を動員したアントニオ猪木引退試合から3日後、本拠地デビュー戦の7日広島戦ではプロ初アーチをライトスタンド中段へ叩き込んだ。

　そんな前評判通りの開幕ダッシュを見せた逸材に長嶋監督の反応も早かった。7試合目には早くも5番起用し、「3番清原（30歳）、4番松井（23歳）、5番高橋（23歳）」の若さとロマン溢れる夢のクリーンナップが実現。番長とゴジラとウルフの闘魂三銃士。これ以降、豪華な“MKT砲”は長嶋巨人の顔となる。5月2日のヤクルト戦ではプロ初の満塁弾、その無類の勝負強さで、このシーズン3本の満塁アーチは新人最多記録として今も破られていない。

　オールスターファン投票では、新人史上最多の51万4351票を集め、松井に次いで外野手部門の2位で選出。

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