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堂安律がビーレフェルトでPKを任されるほどに信頼される2つの理由 “総予算最下位クラブ”での理想とは
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2021/02/19 11:03
1月10日のヘルタ・ベルリン戦でのビーレフェルト・堂安律。今季の更なる活躍が未来につながっていく
【1】考えないでも身体が動くことの重要性
1つ目が、得点とシュートの形だ。ここまで消化試合が1試合少ないながらもシュート数はリーグ全体で12番目に多く、MFのなかでは3番目だ。
全38本の内訳は以下のとおり。
・左足 31本(ゴールが1つ)
・右足 6本(ゴールが2つ)
・ヘディング 1本
(参照:Wyscout)
興味深いのは、3ゴールの内で2点は右足で決めたという事実だ。
彼は「週刊プレイボーイ」の自身の連載ページのなかで今季決めた2つの右足のシュートについてこう語っている。
昨年10月17日のバイエルン戦のゴール:
「中を切られてるから、縦にドリブルして右足で打とう」
今年1月20日のシュツットガルト戦のゴール:
「ほとんど何も考えてなかったです。身体が勝手に動いてくれた感じ」
この2つの違いは、サッカーの真理をついている。
「本当は考えたくないんだよ! 考えない方がプレーが速いし、良いプレーが多い」
これは、チャンピオンズリーグ(CL)でベスト4に進出したあとの内田篤人のコメントである。考えて決断したのではなく、自然と身体が動いたと本人が知覚しているときの判断でないと、競技レベルが上がったときに意味をなさないことを示す象徴的なコメントだ。
相手と対峙するスポーツの場合、「相手がこう来たから、自分はこのように動こう」などと判断している時間はないケースがほとんど。レベルが上がれば上がるほど、じっくり考えているようでは、失敗する。
正確にいえば、選手はどちらのケースでも脳を使っている。
ただ、選手が「脳を使って判断しているな」と自覚するよりも速く、脳が身体に指令を送り、動いている状態がベストだということだ。それができるかは選手の実戦と練習の蓄積に左右される。
8%の期待値のシュートを右足で考えずに決める
なお、ブンデスリーガでは昨シーズンの途中からアマゾン ウェブ サービスと提携して、試合中のデータの高度化を図っている。ゴールが決まったあとに提示される、その「ゴールの期待値」もその1つだ(期待値というのは、ゴールネットを揺らしたシュートが放たれた位置とゴールへの角度、相手の状況などを、過去の膨大なゴールのデータに照らし合わせて計算される)。
それによると、両方のゴールの期待値は以下のようになる。
バイエルン戦のゴール: 7%(同じシチュエーションで放たれたシュートが100本あったら、7本しか入らないようなシュートという意味)
シュツットガルト戦のゴール: 8%
同じような難易度のシュートを、ともに利き足ではない右足で決めた意味は大きい。しかも、シュツットガルト戦のゴールは試合終盤、後半41分のものだ。判断力や集中力、そして体力面でもキツくなる時間帯で、ほとんど考えていないと感じるほどのスピードでの脳が判断したプレーからゴールを決めたという事実は、進化を表すものだろう。
実際、最近の堂安は利き足ではない右足の練習も左足と同じ量をやっていて、特に左右のバランスもまた気を使っているという。その種の取り組みは嘘をつかないということだろう。