マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広島経済大・柳田悠岐も“想定外”だったが…プロでの急成長にビックリしたのは「あの青学大OB、小柄な投手」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2021/01/25 17:50
2010年ドラフト2位で広島経済大からソフトバンク入りした柳田悠岐
「プロ入り後驚かされた選手」もう一人は、ヤクルト・石川雅規投手を挙げたい。石川は今年でプロ入り20年目になる。
167cm73kg……プロ野球選手でなくとも小柄な部類に入るこのサイズで、ヒジや肩を痛めながらの19年間の奮投、そしてここまで173勝という結果は、立派な「偉業」だろう。
延長18回を投げ抜いて、1点に抑えた試合
青山学院大当時の石川を、私は何度か取材に伺ったことがある。
入学した春からすぐ、リーグ戦でエース格として投げ始め、東都大学野球の腕利きバットマンたちが、左腕・石川の“緩急”に翻弄された。速球は135キロ前後なのに、スライダー、スクリューがホームベースの両サイドを突いて、バットの芯で捉えられない。たまにジャストミートしても打球が野手の正面にいくのは、甘いコースには決して投げていないからだ。
打てそうに見えて、なかなか点の取れない投手だった。
2年生の秋、明治神宮大会で延長18回を投げ抜いて、創価大学を1点に抑えたピッチングには驚いた。
「尻上がり」という言葉があるが、そんなもんじゃなかった。秋田育ちの色白な童顔が、イニングを経るごとに透明感を増していく。疲れはあって当たり前なのに、表情だけはどんどん「神」に近づいていく。その翌年、シドニーオリンピックのメンバーに選ばれたのも、そんな「生命力」が選ぶ人の心を無意識に揺さぶっていたのでは……当時はそんなことを考えて、勝手に納得していたものだ。
「あいつ、小さいのにすぐわかるんですよ」
生命力といえば、こんなことがあった。
社会人野球の強豪・東芝とのオープン戦。
試合前の練習で、両チームの選手たちがグラウンドに散らばっている。60人ほどもいるだろうか、その中で、ひと際大きなストライドで外野のフェンス際をぐいぐい走り進んでいくユニフォーム姿。
石川君はあれですか?と河原井正雄・青山学院大監督(当時)に訊くと、
「すぐわかるでしょう!あいつ、小さいのにすぐわかるんですよ、グラウンドにいると。探さなくても、向こうのほうからこっちの目の中に飛び込んでくる」
逸材は向こうから目に飛び込んでくる――私の中の「絶対経験則」の1つが生まれた瞬間でもあった。
「サウスポーは簡単や」
試合が始まって、石川がリリーフのマウンドに上がった。