マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広島経済大・柳田悠岐も“想定外”だったが…プロでの急成長にビックリしたのは「あの青学大OB、小柄な投手」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2021/01/25 17:50
2010年ドラフト2位で広島経済大からソフトバンク入りした柳田悠岐
打者の手元でも回転のほどけない速球でファールを打たせてカウントを稼ぎ、スライダーとスクリューはコースを外さない。
タイミングを外し、バットの芯をずらせば快打はない……そう理解して、安心して投げているように思える石川のピッチングを見て、思い出したことがあった。
「サウスポーは簡単や。140キロまで出なくても、いつでもストライクのとれる変化球が1つあれば、プロでもそこそこ通用する」
その頃、ヤクルトスワローズのスカウト部長だった片岡宏雄さんの言葉だった。
まさに、その通りのピッチング。1つどころか、いつでもストライクのとれる変化球を2種類駆使しながら、打者のタイミングを外してフルスイングさせない。見事なピッチングだった。
アマチュア球界のリーダーになるのでは……
試合が終わり、青山学院大の選手たちがダグアウト前に集合して、河原井監督のミーティングが始まる。
石川の姿がない。グラウンドにも、ダグアウト裏にも見当たらず、ミーティングが終わって選手たちの円陣が解けたそのいちばん後ろから、石川投手の姿がようやく見えた時には、
「そうは言っても、やっぱり小さいよなぁ……」
その時の取材記事を<社会人球界を代表するような名物選手になって、やがてはこの国のアマチュア球界のリーダーになるのでは……>、そんな内容で締めくくったことを覚えている。
その秋、石川は自由獲得枠でヤクルトスワローズに指名され、入団する。
「いつでもストライクのとれる変化球が……」の片岡宏雄スカウト部長が彼を選んだことも、なんだかわかるような気がしていた。
ルーキーイヤーに12勝9敗でセ・リーグの新人王を獲得して以降、10年のうち9年で10勝以上をマーク。常勝球団というわけでもないスワローズで、これだけコンスタントに「10勝級」を続けられる仕事の確かさは、間違いなく何よりの「プロらしさ」だと、あらためて敬意を表したい。
長身投手はタテの角度、石川は「斜めの角度」
石川のピッチングから、私は「角度」というものを学んだ。長身から豪快に投げ下ろす投手なら、タテの角度が武器になるが、石川から学んだのは「斜めの角度」だ。