【5】砂ぼこり舞うグラウンドで……宮國椋丞（元巨人）

　ひとり前の元同僚・田原誠次が「パパー！」の声に迎えられてダグアウトに戻った後のブルペン。

　やりにくいだろうなぁ……と思ったマウンドに元巨人・宮國椋丞が上がった。

　故障明けで、スピードは140キロにも届かなかったが、それでもドン詰まりの内野フライとポテンヒット、元同僚・吉川大幾内野手は三振に切ってとった。

　そうなんだよ……ものすごく速く感じるんだよ、宮國のボールは……。

宮國椋丞（元巨人）　©BUNGEISHUNJU

　思わず、つぶやいていた。

　沖縄南部、太平洋戦争の「沖縄戦」で激戦地になった糸満の高校の砂ぼこり舞うグラウンドで、ボールを受けた。

　私の体感では「150キロ」だった。ミットがまともに間に合わなかったのは、長旅の疲れのせいだけじゃなかった。

　驚いたのは、遠投だ。まっすぐなライナー軌道で80mは投げただろう。この夏、「合同練習会」でスカウトたちが目を奪われた福岡大大濠・山下舜平大（オリックス・ドラフト1位）の遠投が、ちょうどこんな感じだった。

【6】よくも、オレをクビに……藤岡貴裕（元巨人）

　私がボールを受けたことのある「6人」――その最後に登場した藤岡貴裕（元巨人）のピッチングがすごかった。

　東洋大当時、この神宮のマウンドで支配感あふれる堂々のピッチングをしていた頃の、あの無敵の「藤岡貴裕」が戻ってきたような、そんな“オレ様感”があった。

藤岡貴裕（元巨人）　©BUNGEISHUNJU

　ピッチングを受けたのも、そんな学生時代の「全盛期」だったから、必死に受けた。

　東洋大グラウンドのブルペンは木陰にあった。薄暗いとボールは2割、3割増しで速くなる。もっと、光を……せめて、ひなたで受けたかった。

　そのとき緊張したのは、藤岡投手の向こうから、元西武のエース・松沼博久氏がジッとピッチングを見つめていることだ。当時、母校・東洋大で投手陣の指導をなさっていた。

　見ているのは、藤岡のピッチングだ、オレのことじゃない……そう言い聞かせても、全身はこわばるばかり。

　トライアウトでは藤岡貴裕の144キロが、この日いちばん振れている耀飛（田中、元楽天）のスイングをなぎ倒す。

　次の田代将太郎（元ヤクルト）に同じ144キロをバシッとセンターへライナーで返されて、藤岡貴裕が怒ったように見えた。

　左打者の日暮矢麻人（元ソフトバンク）に投げつけたクロスファイアーがすごかった。

　よくも、このオレをクビにしやがったな……！

　腕の振りに、ほとばしるほどの「怒り」がこもって見えていた。

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