指にかかった時、低めに唸るストレートなど、受けたミットがめくられるかと思うほどの破壊力だ。

「こりゃあ、150出たでしょう！」
「いや、144ですねぇ……」 

　一方で、ちょっと抜け気味に右打者のインハイあたりを突いた棒球っぽいやつが、

「安倍さん、149出てますよ！」

　プロに進んで「161キロ」まで出してみせた由規。数字の上では「速球王」のような存在になったが、その割りに、その最速付近を結構打たれていたような気もする。

　もしかしたら、打者の体感では、140キロ後半ぐらいがいちばん速く感じていたんじゃないかな……。向き合った打者が何キロと感じているのか……それこそが「球速」であろう。

【2】“信用金庫のお兄ちゃん”のようだった東明大貴（元オリックス）

　シートバッティング11人目の投手としてマウンドに上がった東明大貴（元オリックス）とは、大学当時から交流があった。桐蔭横浜大がリーグ戦優勝を競うようになり（硬式野球部は06年創部）、やがて「全国優勝」を飾るまでになるのは、この右腕の功績が大きい。

　社会人野球・富士重工（現・SUBARU）の2年目、チームではエース格となり、ドラフト候補にも挙げられていた頃にピッチングを受けた。

　バックスピンの利いた気持ちのよい速球を、懸命に投げ込んでくれた。スライダーはホームベースの手前で、横にキュッときれた。

　力んでしまいました……と、後で笑っていたが、ちょっとでもミットを外すと、すいません！すいません！と、帽子をとった。

「謝んなくていいよ、悪いことしてるわけじゃないんだから！」

　それでも、ミットを外すと謝っていた。  

　向き合って話していると、善人そうな笑顔と人なつっこさで、自転車でやってくる“信用金庫のお兄ちゃん”のようにも思えた。

　狙ったコースが少しずつズレてカウントを不利にして、ストライクを取ろうとして置きにいってしまったトライアウトのピッチング。打者3人に四球が2つ。トライアウトだから、うまくやろうとしたのかもしれない。そういうところが、いかにも「好漢・東明大貴」らしかった。

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