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“史上最強”の韓国を打ち崩したマラドーナ 32年ぶりのW杯で味わった世界との差「あいつは止められない」
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byGetty Images
posted2020/11/28 11:02
韓国の厳しいマークに苦しみながらも3アシストを記録したマラドーナ。別格の力を見せつけ、W杯制覇まで駆け上がった
「後ろに目があるんじゃないかって」
前半23分、キム・ピョンソクに代わってチョ・グァンレがピッチに送り込まれると、攻守のバランスを保ちながら、しっかりとパスをつなぐよう監督から指示が出された。その後、マラドーナのマンマークはホ・ジョンムが担当した。ホ・ジョンムは前半終了直前にマラドーナにファウルを犯し、イエローカードをもらっている。
「ホ・ジョンム監督はマラドーナによく食らいついていました。ファウル覚悟で止めようとしていたと思います。彼の奮闘なしでは、もっと失点していたとも感じますね。私もマラドーナと何度かマッチアップすることがありましたが、後ろに目があるんじゃないかって思うくらい、ボールを受ける前に、フェイントで相手をだますのがうまかった」
後半に入ってからもすぐに試合は動いた。後半1分、またもマラドーナのアシストからバルダーノに得点を許してスコアは0-3。チョ・グァンレも何度かマラドーナのボールを奪おうと試みたが、ボールに触れることすらできず、いとも簡単にかわされてしまう。
「普段は相手をうしろでマーキングしているときは、アジアの選手であれば、5~8割の確率でボールはカットできたんです。でもマラドーナはうしろから素早くボールを奪いにいってもまったく取れない。それは今までに感じたことのない衝撃でしたよ」
後半28分、キャプテンのパク・チャンソンが約25mの強烈なロングシュートで、ようやくアルゼンチンのゴールネットを揺らした。それは韓国にとってワールドカップ初ゴールであったが、かの国の人々の記憶の中にはその快挙よりもマラドーナにしてやられたという苦い思い出のほうが根強い。チョ・グァンレも世界の壁は厚く、点差以上に実力の差があったことを素直に認めた。
「アルゼンチンはすべての選手が優れていましたが、それが霞んでしまうくらいに、マラドーナの存在感は際立っていました。このチームは優勝すると、そのとき思いましたね」