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マラドーナに「テコンドー」と揶揄された韓国サッカー 86年メキシコW杯で生まれた因縁と勲章

posted2020/11/28 11:01

 
マラドーナに「テコンドー」と揶揄された韓国サッカー 86年メキシコW杯で生まれた因縁と勲章<Number Web> photograph by Getty Images

1986年6月2日、メキシコW杯アルゼンチン対韓国。マラドーナに厳しくチャージを仕掛けるホ・ジョンム

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キム・ミョンウ

キム・ミョンウKim Myung Wook

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Getty Images

2020年11月25日。サッカー界のスーパースター、ディエゴ・マラドーナがこの世を去りました。幾多の伝説を作ってきた姿を、これまでNumberでも多くご紹介してきました。今回は2010年W杯南アフリカ大会期間中に発売された臨時増刊号(2010年6月17日発売)に掲載された『ナンバー・ノンフィクションW杯篇/マラドーナとホ・ジョンムの因縁』を特別に無料転載します。前後編の2本立てでお楽しみください(後編は下部の関連リンクから)

 手元に1枚の写真がある。赤のユニフォームの韓国人選手が、マラドーナの左足に思い切りタックルを浴びせている。そこに写るマラドーナのゆがんだ表情がなんとも痛々しい。

 写真の裏には「1986年メキシコ・ワールドカップ グループリーグ第1試合 アルゼンチン対韓国」と書かれている。

 当時の映像を再生してみると、それがどのようなシーンであるのかが分かった。そして、タックルを浴びせているのが現韓国代表監督のホ・ジョンムであることも。

 前半5分。ハーフウェイライン右からアルゼンチンのバチスタが、ペナルティーアーク中央で待ち構えるパスクリにクロスボールを上げた。それをパスクリが胸で落とすと、走りこんできたマラドーナが突破を試みようとした。そのときだ。ホ・ジョンムがマラドーナを目がけて、凄まじい勢いで突っ込んだ。

 マラドーナは左ひざを抱えて倒れ、顔をゆがめながらもがき苦しんだ。そのシーンだけを見れば、ホ・ジョンムの悪質なプレーと判断されるのは間違いない。

 主審はファウルの笛を吹いたが、イエローカードは出さなかった。ホ・ジョンムがバウンドする瞬間にボールを蹴りだし、その勢いでマラドーナと衝突していたのをよく見ていたのだ。だが、当時の海外メディアはその写真を掲載し、「韓国はピッチの上でテコンドーをした」と評した。

 あれから24年。マラドーナとホ・ジョンムは代表監督として、ワールドカップの舞台で再び相見えることになった。

噛みついたら話さない犬

「韓国、アルゼンチンと24年ぶりの再戦!」

 南アフリカ・ワールドカップの組み合わせ抽選会後、韓国の各種メディアは、アルゼンチンと同じ組になったニュースをこぞって取り上げた。しかも、86年大会でマラドーナをマークしたホ・ジョンムの“過去と因縁”にスポットを当てた。

 現役時代のホ・ジョンムは“珍島犬”と呼ばれていた。韓国で天然記念物に指定されている犬のことで、ホ・ジョンムの生まれ故郷である全羅南道の“珍島郡”に由来する。最後まで試合を諦めない闘争心と勝負根性にあふれたプレーぶりが、「噛みついたら離さない犬のようだ」と評された。

 ホ・ジョンムは80年にPSVとプロ契約を交わして3シーズンを過ごしたあと、国内クラブでプレーし、韓国代表にも欠かせない存在となった。86年に現役を退き、その後はKリーグクラブの監督や代表コーチを歴任し、98年には韓国代表監督になった。そして07年12月に2度目の代表監督に就任した。

【次ページ】 加熱する韓国メディア、ベロンにも直撃

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