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“史上最強”の韓国を打ち崩したマラドーナ 32年ぶりのW杯で味わった世界との差「あいつは止められない」
 

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キム・ミョンウ

キム・ミョンウKim Myung Wook

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photograph byGetty Images

posted2020/11/28 11:02

“史上最強”の韓国を打ち崩したマラドーナ 32年ぶりのW杯で味わった世界との差「あいつは止められない」<Number Web> photograph by Getty Images

韓国の厳しいマークに苦しみながらも3アシストを記録したマラドーナ。別格の力を見せつけ、W杯制覇まで駆け上がった

ユベントスからオファーをもらったチェ・スンホ

 もう1人。自分たちの実力と世界との差に、大きな溝があったと感じている人物がいる。当時、“国内最高のFW”と呼ばれたチェ・スンホ。現在、Kリーグの江原FCで監督を務める彼は開口一番、「韓国に『井戸の中の蛙』ということわざがあるのですが、日本にもありますか?」と聞いてきた。

「ワールドカップの前は、夢に満ちあふれていました。ようやくこの舞台に立った、かならず世界を驚かせてやるとね」

 チェ・スンホの才能は若くして世界に認められていた。80年に高校3年で代表に招集されて注目を集め、オーストラリアで行なわれた81年の世界ユース選手権のイタリア戦で2ゴール2アシストを記録。その活躍が認められ、イタリア・セリエAのユベントスから86年までの5年間、オファーを受け続けた。だが、所属クラブである浦項製鉄の反対や兵役問題によって、移籍話が流れてしまうと、FIFAのインターナショナル・ヘラルド・トリビューンのコラムニストは記事の中でこう評した。

「名門クラブのユベントスが獲得オファーを表明し、5年もラブコールを送り続けたが、契約に至らなかったのは、唯一チェ・スンホだけだろう」

 当時から海外でも実力を高く評価されていたチェ・スンホには、世界の強豪とある程度は戦えるという自信があった。

「85年に国立競技場で日本と対戦したとき、テームの結束力は最高潮に達していました。チームのバランス、ハーモニーが融合され、経験豊富なベテランと才能あふれる若手の技術も高かった。監督やコーチも対策を練っていたので、最高の状態で大会を迎えることができました。でも、本大会に行ってみると、現実は違っていました」

マラドーナの後ろ姿を見て思ったこと

 ゴールを待望されていたチェ・スンホだったが、アルゼンチン戦でほとんど仕事をさせてもらえなかった。防戦一方で、マラドーナのプレーをただ、後ろで眺めているしかなかった。

「初戦のアルゼンチン戦は苦い思い出ですね」

 チームメイトのホ・ジョンムが、マラドーナを執拗に追っていた姿はよく見えていた。そして、そのマークをマラドーナが明らかに嫌がっていたことも鮮明に記憶している。FWのチェ・スンホは、マラドーナと直接対決するシーンはほとんどなかったが、彼はマラドーナの後ろ姿を見て思った。あいつは止められない――。

「試合内容は説明する必要もないでしょう。実力通りの結果です。大敗しなかったことは運かもしれませんね」

 アルゼンチン戦で守備的な戦いをしたと韓国メディアは批判した。しかも、「チェ・スンホが一番不振だった」と叩き、2試合目のブルガリア戦はスタメンから外された。

 だが、3試合目のイタリア戦では、先発出場してゴールを決めた。試合は2-3で敗れたものの、その得点は今でも韓国で語り草になっている。今年(2010年)3月、イギリスの有力紙『THE TIMES』が発表した「歴代ワールドカップのベストゴール50」の中でも26位に選ばれた。

「あのときのゴールで20年は飯を食っていけると思いましたね。ブルガリアとイタリアには善戦しましたが、アルゼンチンには、たとえ3試合目で戦ったとしても勝てなかったでしょう」

 チェ・スンホは一呼吸し、「けれどもね」と前置きして言った。

2002年と同じ環境だったら

「86年のチームがもし、02年大会のベスト4のときと同じ環境で作られたならば、どういう結果が出ていたのかと考えることはあります。同じ環境ならばセンセーションを起こせるチームだったのではないのかと思うことがあるんですよ」

 自信たっぷりのその言葉は、生まれた時代を少し悔やんでいるようにも聞こえた。

「もしかするとホ・ジョンム監督だって同じ気持ちかもしれません。でも、彼は南アフリカという第2の舞台で挑戦できるからね」

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