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巨人の「どうしようもない力負け」を演出した鷹エース・千賀滉大 坂本、岡本に植え付けた“残像”とは
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2020/11/26 11:45
初戦に先発して7回無失点に抑えた千賀。シリーズ全体に影響を及ぼす見事な投球だった
「いつインコースが来るのか」
ところがフタを開けてみれば第1戦の第1打席の初球は外の真っ直ぐ。そこから始まって3球続けて千賀が投げたのは外角球だった。そして最後はインコース低めに落ちるフォークで空振り三振に仕留めると、第2打席も全5球中4球が外(結果は四球)と昨年とはガラッと変わった配球を見せているのだ。
「いつインコースが来るのか」
昨年は散々、内角を攻められてシリーズで沈黙させられた坂本は、今度は去年の残像からインコースを意識させられながら、外角主体の配球で封じ込まれていった。
シリーズで3安打は放ったが、長打は第4戦の二塁打のみ。打率2割1分4厘では主軸の働きは果たせない。しかも真っ直ぐとカットボールで昨年同様にインコースを意識させられた丸も打率1割3分3厘とシーズン中の輝きをすっかり失ったシリーズとなってしまったのである。
エース対決での勝利で開いた連覇への道
そんな主軸3人の打撃には、いずれも初戦で対戦した千賀の残像がある。そうして4試合のソフトバンクの投手陣と巨人打線の攻防は、その千賀が刻んだ残像をベースに、それをソフトバンク投手陣が利用して巨人打線を支配していった。
そういう構図だったのである。160kmに迫るストレートとお化けフォークという絶対的な決め球を持つ千賀だからこそ、ただその試合を勝つだけではなく、次の試合にも影響を与える。そんなエースのピッチングだったのだ。
結果的にはソフトバンクの強さだけが目立った、4連勝のあっけないシリーズだったかもしれない。しかし振り返れば初戦のエース対決を勝ったことで、ソフトバンクの連覇への道は明確に開けた。
そして単に菅野に投げ勝っただけではない、相手の主軸打者のバッティングを崩して勝った。
連覇の扉を押し開けたのは、やはり千賀だったのである。