「持っている力を最大限、清水に還元したい」

　3月、加藤は父の墓前で覚悟を言葉にして、清水に戻ってきた。

　今回も練習参加は1週間。ただ前回と少し変わったことがある。ロッカールームで着替えていると、そこには「おう、加藤！」と笑顔で迎えてくれる鄭大世がいた。恐る恐る話しかけた3年前と打って変わって、偉大な先輩から加藤に呼びかけてくれたのだ。

「テセさんは以前と違って、試合に絡めていない時で苦しかったはず。でも同じポジションの僕に対して、自分の苦しみを包み隠さずに伝えてくれたし、『自分の武器を再確認しろ』と多くのアドバイスをしてくれた。自宅に招待されて、ご飯を食べた時も本当にたくさんの話をしてくれたし、1週間の練習参加が終わった後にテセさんがインスタで『やっぱり加藤は後輩ではなく、ライバルとして見ている』と書いてくれた。今までは『この人のようになりたい』という憧れの存在から、『この人からポジションを奪いたい』、『一緒に2トップを組みたい』と思うようになりました」

　この夏、心から尊敬する鄭大世は新潟へ期限付きを発表したが、健闘を誓い合った加藤は再び清水へ招かれ、そこで正式オファーをもらった。

「光太郎さんにも『1年生の時に裏方で黙々と仕事をしているのも見ていたよ。清水に足りないものを持っている。人間性も含めての評価だよ』と言われたのが凄く嬉しかった。1人の人間として見てくれていた」

「テセさん」に教わったことをしっかりと発揮することができたのだろう。他のJ1クラブが獲得に動いた話は耳に入ったが、加藤の心は一択に決まっていた。

「自分の持っている力を最大限、清水に還元したいし、清水で愛される選手になりたい。このクラブの象徴的な選手になりたいし、タイトルをもたらせる存在になりたいです。早稲田にも特別な感情があって、僕はここで外池監督と出会えたことが大きかった。『楽しめ』と言われ続けていますが、その裏には『挑み続けろ』という檄がある。今季はリーグ戦で優勝のチャンスもあるし、来年は僕らの代。欲張りかもしれないけど、プロと大学の２足の草鞋を履いて、両方で結果を残したい。これからのサッカー人生で家族、周りの人たちへの恩返しを全力でしていきます」

鄭大世からの激励メッセージ

　度重なる怪我、挫折、そして誰よりも自分の未来に期待してくれた父の死。感情を揺さぶられながらたどり着いたプロの舞台。その思いの全てをピッチにぶつける。そんな覚悟を持った後輩に向けて、「獰猛なストライカー」は優しく、厳しく激励を送った。

憧れの鄭大世と写真に収まる加藤　©︎Takumi Kato

「早い段階でオファーが来たのはすごくうれしいこと。今は一緒にプレーできないことが本当に残念だけど、本気で応援してるよ。ここから本番。プロになって気づくのは、プロになることよりも生き残ることの難しさだよ。成長し続けない限り、すぐにドロップアウトを余儀なくされる世界。頑張れよ」（鄭大世）

　加藤は今、スタートラインに立った。