サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
“大黒様”に決められた劇的ゴール。
若き日の鄭大世が埼スタで見た悪夢。
posted2020/04/20 12:00
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph by
AFLO
「大黒様! 日本救ったロスタイム弾!」
スポーツ新聞一面を飾ったこの大きな見出しが今も忘れられない。
今から15年前の2005年2月9日、ドイツワールドカップ(W杯)アジア最終予選の日本代表対朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)の試合が、埼玉スタジアムで行われた。“ジーコジャパン”の最終予選初戦の相手は古豪・北朝鮮代表だった。
北朝鮮が国際試合にあまり姿を見せないことから、その実力が未知数であること、謎めいていることで“ダークホース”と表現する記事が多く散見された。
この頃から北朝鮮サッカー界にも徐々に変化が訪れてきており、当時の顔ぶれにはロシアのFCロストフなどでプレーしたホン・ヨンジョのほか、在日コリアンJリーガーの安英学(当時名古屋グランパスエイト)と李漢宰(当時サンフレッチェ広島)がメンバー入りしたことで、それなりに力はあったはずだ。
同じ在日である筆者も、特に安英学と李漢宰の2人には活躍を期待せずにはいられなかった。
北朝鮮の希望を打ち破った大黒投入。
だが、試合会場は北朝鮮にとって完全アウェイの埼玉スタジアム。その雰囲気に飲まれるかのように北朝鮮は開始早々の前半4分にMF小笠原満男に直接FKを決められた。
当時のFIFAランキングでは日本19位、北朝鮮97位。実力通りの結果になりそうな気配を感じつつ、「そう簡単に日本には勝てないか……」と思っていた。
だが、戦況は一変する。
北朝鮮は球際の激しさ、豊富な運動量で日本に追加点を許さない。それどころか、決定的なチャンスを幾度か演出し、日本ゴールを脅かす。
「これはもしかして……」
予感めいた閃きは現実となった。
61分、左サイドからDFナム・ソンチョルが左足を振り抜いて同点ゴールを決める。日本に在住する在日コリアンの大応援団が歓喜に沸く。記者席すらも完全アウェイの中、筆者は周りの空気を読めずに立ち上がって喜んでしまった。
1-1の同点のあと、ベンチに座るジーコ監督には焦りが見え始めていた。途中からFW高原直泰、MF中村俊輔をピッチに投入するも、ゴールを奪えない時間が続く。
残り約10分。ここでジーコ監督は最後の切り札を使う。投入されたのは、FW大黒将志だった。