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【引退】中村憲剛が「タイトルを獲れない最大の原因は自分」と悩んだ日 悔しさこそ原動力だった
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/11/02 20:00
MVPを獲得した2016年の1枚。栄光はキャリア終盤に巡ってきたが、フットボーラー中村憲剛の土台には、何度も味わった悔しさがあったのだ
初優勝、あの崩れ落ちた瞬間のこと
そのわずか1カ月後のこと。
信じられないほど劇的すぎる形で、川崎フロンターレは初優勝を果たした。優勝が決まった瞬間、中村憲剛は嬉し泣きの表情を浮かべ、等々力のピッチにうずくまっていた。クラブシーンの中で永遠に語り継がれるであろう光景だ。
あの崩れ落ちた時、中村憲剛は何を見ていたのだろう。
そして、何を思っていたのだろう。
「宏樹さん、オニさん、ジュニーニョとか」
あの時の景色を、彼はこんな風に明かしている。
「みんながベンチから飛び出してきて、あー、優勝したんだ、よかったって思ったら、これまでプレーしてきたいろんな選手の顔が走馬灯のように出てきた。宏樹さん(伊藤宏樹)もそうだし、オニさん(鬼木達監督)、ジュニーニョとか、プレイヤーとして成し遂げられなかった人たちの思いを背負っていたのだと思う。それが全部、落ちた瞬間だったのかもしれない。だから仰向けじゃなくて、あのまま落ちて倒れたのかな(笑)。あれはもう、説明つかないです。説明してますけどね(笑)」
その優勝直後のインタビューで、「このままタイトルを獲れずに辞めていくんじゃないか」と話していたが、あれは紛れもなく本音だったのだろう。
優勝翌日も「自分がいなくなったあとに、あっさりと優勝してしまうのかなと思った。自分がいる間に優勝できたのはすごくうれしかった」と、何度も噛み締めていた。