「事前に指名するという挨拶もなく強行指名するのは失礼だ」

　プロ志望届を出した時点で、プロ入りの意思を表明したのだから、ドラフトで指名された球団に行くのが球界のルール。もともとドラフトは選手の意思は反映されず、他の選手はそれを受け入れているのに、それを拒否するのは、菅野のわがままだから許されない。

　ざっというと菅野の入団拒否を「わがまま」「横暴」と主張していた人々の心情、論理はこんなものだったと思う。

　何より前年にも巨人一本を表明していた中央大の澤村拓一投手を、巨人は狙い通りに単独指名して獲得している。またも菅野を一本釣りで獲得することへの反発が、そんなムードを作り上げる下地にはあった。

「事前に指名するという挨拶もなく強行指名するのは失礼だ」

　菅野の祖父でアマチュア球界の重鎮でもあった東海大系列校野球部総監督の原貢さんのこんな言葉も、却って反感を買うだけでしかなかった。

母・詠美さんは原監督の妹にして、あの原貢の娘

　原家、菅野家への猛バッシング。逆風吹き荒れる中で、菅野は自分の将来を決める決断を迫られていた訳である。

　そんな嵐の中で取材をしているときに聞いたのが、菅野の母・詠美さんの母親としての決意だった。

「私は智之が子供の頃から将来、巨人に入ってお兄ちゃん（原監督）と一緒にプレーすることをどれだけ望んできたか、そのためにどれだけ努力をしてきたかを知っています」

　原監督の妹にして、あの原貢の娘。ご主人は東海大相模高校での貢さんの教え子で、原監督の後輩という一家だ。

「もちろん最後には智之が自分の進む道は自分で決めます。でも私は智之は日本ハムには行かないと思う。だからそうなったときに、周りの人から何と言われても、あの子の夢を叶えてあげたい。そのために、これからどんな大変なことが起ころうとも、私は智之を支えていく覚悟は決まっています」

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