相手が決めても盛り上がる時間を与えない

　バスケットボールは細かい戦術が事前に練られているため、チームの得意な形からゴールが決まったときや、エースがゴールを決めたときにチームの士気が上がる。ファンがそれに反応して、会場が盛り上がる。その盛り上がりは、試合の流れやチームの勢いにもつながる。

　しかし、昨季の川崎は、相手チームが盛り上がる時間を与えなかった。

　相手のビッグショットが決まった次の瞬間には、彼らは攻撃をスタートさせていた。

――すぐに攻撃を始めるよう徹底した理由は？　

「例えば、シュートを入れられた後の時間、審判が笛を吹いてからプレーが再開するまでの時間など、バスケットボールには空白の時間がけっこうあるんです。その中で、どれだけ次のことを考え、どれだけ次のプレーの準備をできるか。そこに強いチームと弱いチームの差があると考えているからです」

相手より先に動き出さないといけなかったのは

――あれで相手の意気が上がらない場面も多かったですね。

「ただ、メンタル面の切り替えの意味だけではなく、実は、攻撃でうちの強みを活かすためでもありました」

――戦術的な意図もあったと？

「ニック（・ファジーカス）が良い例なんですけど、彼は相手選手と一対一の局面で相手を抜き去って点を取るタイプじゃないですよね？」

――そうですね。でも、シュートが上手くて、毎シーズンのようにチームで最多の点数を決めてきた、Bリーグ初代得点王です。

「彼は、相手ディフェンスとのマークに少しでもズレができたとき、それを料理する力が最強の選手なんですよ。そのズレを活かすのは（篠山）竜青や、辻（直人）も得意で……。HCになって、自分たちのオフェンスをイメージしたとき、『ちょっとしたズレを手にすることによって輝く選手が、うちにはたくさんいるぞ！』と。そのズレを作るためにも、相手より先に動き出さないといけないという考えがあったんです」

　昨シーズンの最初のミーティングで佐藤が見せたのは、一昨シーズンの最終戦で相手のゴールが決まった後、川崎がゆっくり攻撃を始めたため、相手の守備の準備が整ってしまい攻めあぐねるという映像だった。

　それを、彼らは1年で劇的に変えた。

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