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Bリーグ川崎・佐藤HCは理想の上司? スローガン「UN1TE」の「1」に込めた意味とは
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by(c)KAWASAKI BRAVE THUNDERS
posted2020/10/01 11:50
ニック・ファジーカス(左)と佐藤HC。3つの優勝とその先を目指す
青木を副キャプテンに指名したのは
――筑波大を卒業後、プロ契約を結んでから2年と少しの青木保憲選手を、今シーズンから副キャプテンに指名したのはなぜでしょう?
「彼は小学校から大学まで、ずっとキャプテンを務めてきた選手。僕も、小、中、高、大学、(前身の)東芝と、ずっとキャプテンをやらせてもらってきました。だから、青木には『もっと、できるでしょ? 本当はもっと、リーダーシップあるよね?』という思いがずっとありました。役職を与えることで、強い意志、新たなモチベーションが出てくるのではと期待してます」
――成長を続けているとはいえ、彼はこれまで出場時間が長い選手でもないですが?
「プレータイムだけを見た人には本当の価値がわからない選手でも、別のところで輝いていたりもします。強いチームにはそういう選手が必要だと僕は思っていて。例えば、今のロサンゼルス・レイカーズって強いじゃないですか? レイカーズには色々なスターがいますけど、試合にあまり出てない(ジャレッド・)ダドリーっていう選手がいます。でも、彼はすごい人格者だと聞いたこともあって。青木はそういうものを持っていますし、練習でも絶対に手を抜かない」
勝利と優勝を目指すけれど
――最後に今季の目標は?
「3つの優勝を勝ち取ることです」
――天皇杯、東地区、そしてプレーオフにあたるCSの優勝ですね?
「目指すのはそこしかないです、結果としては」
――結果としては?
「はい。今年は、結果だけではなくて。こういう状況で、スポーツをやれることへの感謝と恩返しをしないといけない。我々にできる、もっとも大きなことは、コート上でプレーを見せることなので……今シーズンは『UN1TE』*というスローガンですよね?」
(*団結を意味する「UNITE」の「I」が数字の「1」になっている)
――そこに意味があると?
「他人と一定のディスタンスをとることが常識になっている今の世の中で、スポーツの力、バスケットの力を通じて、人と人とが『一体』になる瞬間が作れれば、それが社会貢献にも繋がると思っています」
――勝利プラスアルファの目的があると?
「もちろん、勝利と優勝を目指してやりますが、我々が存在させてもらえている意味や理由も、しっかりと見せていかなければならないと考えています」
佐藤の話を聞いていると、優れたリーダーになるための講義を聴いているような気になってくる。
部下に課題を与えるときには、その先にある収穫をイメージさせ、目安となる指標や数字目標を設定する。
そんな考え方を培ったのが、川崎市にある東芝の小向工場だった。チームの運営母体は2年前に東芝からDeNAに変わったが、今も変わらず小向工場の敷地内にある体育館で練習が行なわれている。そもそも、川崎ブレイブサンダースは70年前に工場の同好会としてスタートして、社員の『一体』感を醸成するために発展してきた組織だ。
険しい時代に合ったものでありながら、チームの存在の原点回帰の意味も帯びる『UN1TE』というスローガンを掲げて戦うと佐藤が決めたのは、必然なのかもしれない。