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堂安律「違いを生み出せる選手に僕はなりたい」志高きビーレフェルトの起爆剤となれ
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2020/09/26 11:40
フランクフルト相手に1-1のドローで1部開幕戦を乗り切ったビーレフェルト。堂安律は異色のチームでどんな結果を残せるか
インサイドハーフとしてこなした仕事
フランクフルト戦の堂安は、それまでの右アウトサイドではなく{4-1-4-1}の右のインサイドハーフとして先発して、73分までプレーした。シュート1本、味方のシュートにつながるパスが1本というのは、違いを生み出す選手としては物足りない。
その一方で、攻撃をつなぐ仕事では奮闘した。後方からのパス10本のうち6本を自分のところで落ち着かせ、GKオルテガから足下へ来たパスは3本中で2本を収めた。
前半23分、最後尾に位置するオルテガからのボールを軽くフリックして、プレッシャーをかけてきたフランクフルトのセバスティアン・ローデを見事にかわし、攻撃を加速させたシーンはこの日のハイライトだった。今後は堂安のプレーも研究されてくる。そこでどれだけやれるか。真価が問われる。
ビーレフェルトが次に控えるのは、26日のホームでのケルン戦だ。昨シーズンからリーグ戦10試合勝ちのない相手に勝てるかどうか。まだ2試合目だが、今後を占う上で大きな意味を持つ。
1部の舞台となる本拠地だが、ネーミングライツによって「シュコ・アレーナ」という名称になっている。ただ、一説によるとビーレフェルトファンの95%は本来の名称である「シュタディオン・アルム」と呼ぶという。その理由は「このスタジアムには神話が宿る」と言われてきたからだ。神話を意味する「ミュートス」と名称の「アルム」をつけて、「ミュートス・アルム」とも呼ばれる。
芝生にかけられたお金と志と夢
そんな神話が宿るスタジアムには飛びきりの秘密がある。
お金がないクラブではあるが、「ミュートス・アルム」にだけは精一杯の費用をかけているのだ。ドイツの多くのスタジアムや練習場の管理をするハイラー社の提供する、天然芝と人工芝がミックスされた最新鋭のハイブリッド芝生を敷いている。
このハイブリッド芝はドルトムントと、フォルクスワーゲン社の強大なバックアップを受けるヴォルフスブルクのホームスタジアムで使用されているのと同じものだ。
最新鋭の芝生を採用しているのは、寒さの厳しい冬でもピッチを良い状態に保つため。もちろん、そのピッチはパスをつなぐためには最高の環境となる。
選手獲得の資金繰りに頭を悩ますことの多いサミル・アラビGMは、芝生にお金をかけることが理想のサッカーをする上での「アドバンテージ」になると認めた上で、こう話している。
「昨シーズンは2部の舞台で魅力的なサッカーをしたが、それを続けていきたいからだよ。我々は自分たちのコンセプトに『誠実』であり続けるし、『センターフォワードが上手く頭でつないでくれますように』と期待して前線に蹴るだけではないのだ!」
お金もない。経験もない。
でも、志と夢がある。
シーズン開幕前、老舗スポーツ誌の『スポーツビルト』によるアンケートで「今季サプライズを起こしそうなチームは?」として2番目に多くの票を集めたのがビーレフェルトだった。
そんなドイツ中が期待を持って見守っているチームに、日本代表の期待の1人が助っ人として加わった。
フットボールの世界のロマンがつまっている彼らの戦いを、見逃してはいけない。