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“悪川君”が覚醒! 原辰徳監督も「救ってくれた」と最敬礼、吉川尚輝のきらめく野球センス
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2020/09/25 11:50
9月22日の広島戦で、サヨナラ打を放ち、ナインから祝福を受け笑顔の巨人・吉川尚輝(右から2人目)
「改名せにゃいかんよ。苗字から悪川だな」
ただ、監督の目には決定的な何か、物足りなさがこのときにあったのだろう。そうして先発を外れることが多くなったことが原因か、それともそれがその時点での吉川の力だったのか。打撃の状態はどんどん下がり、先発出場の機会はめっきり減っていった。
あまりの状態の悪さに7月9日の中止となった阪神戦の試合前練習では、原監督が直々に打撃指導に乗り出した。
「あれが本来(の姿)だったら、改名せにゃいかんよ。苗字から悪川だな。悪川くん。吉川くんにならなきゃ」
指導後にはこんな毒舌ではっぱをかけたが、それでも“悪川くん”の状態は一進一退。そうしている間に若手選手がチャンスを与えられると活躍するという原マジックのおかげで、巨人打線の猫の目は、逆にチームの強さの象徴となっていった。
だが、吉川はやはり今年の巨人が本当に強くなるためには、欠かせぬピースなのである。
完全復活を告げるような劇的サヨナラ安打
その吉川が長いトンネルを抜け出して、徐々に状態を挙げてきたのが8月中旬過ぎからだった。
「1日、1日を無駄にしないように。練習ではティー打撃からバットの出し方や打つポイントを意識して、そういうところからやっている」
そんな地道な積み重ねが、確実に結果に結びつき出したのは9月に入ってからだった。
最初は7番や8番の下位で先発だったが、9月16日の阪神戦で2番に入り、2日後の19日の同カードで1番に復帰すると、以降は当初の原構想通りの“定位置”を守り続けている。
そしてスクイズ失敗を阻止した翌22日の広島戦では同点の9回2死三塁から、完全復活を告げるような劇的サヨナラ安打でチームに勝利をもたらした。
この広島3連戦を終えた24日の時点で9月の成績は72打数28安打の打率3割8分9厘、8四球で9打点とリードオフマンとして、再び高みに上り詰めてきたのである。