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澤村拓一とトレードの香月一也って? 亡き父譲りの明るさ、理想の打者像はあの大阪桐蔭の大先輩。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byRyotaro Nagata
posted2020/09/08 16:15
巨人へのトレードが決まった香月一也。プロ6年目の24歳、右投げ左打ち。パンチ力ある打撃が魅力だ。
「人付き合い」を教えてくれた父。
人生の目標にするのは父だ。プロ2年目の春季キャンプ中、その父が病気で亡くなった。
「父は野球に厳しくなかったし、いつも『好きにやれ』って感じでした。家族全員が本当に仲良かった。いつも笑っていた気がします。本当に楽しい思い出しかないですね」
プロ入り1年目のオフ、家族旅行に出かけた。場所は大分の温泉地。それが最後の思い出になった。父は息子にあまり語るタイプではなかった。それでも気の優しい性格の父の背中から、今後自分がどう社会で生きていくべきなのかを教えてもらったような気がした。
「(父は)人付き合いが本当に好きな人で、自分がプロに行くと決まってからも自分の友達の親とか周りの人達とよく食事にも行っているようでした。人付き合いがめっちゃ好きだったんだと思います」
父から受け継がれたものは、今も彼の人生に活かされている。
たとえば毎年11月に行われるファン感謝イベントでは、大阪桐蔭高の先輩でもある江村直也と共にお笑い担当を買って出て、スタンドに集まるたくさんのファンを和ませた。
今季でプロ6年目を迎えたが、後輩たちも彼を慕って次々と寄って来る。人徳に恵まれたところはまさに父譲りと言って良いだろう。
「翔さんみたいになりたいんですよ」
最愛の父が亡くなったプロ2年目以降は少年から大人の目に変わったのも感じた。当時まだ19歳。ショックも相当なものだったはずだ。
それからというもの若手特有の甘さがすっかり消え失せ、気の良い性格を見せる一方で、グラウンドではチラリと“ナイフ”も覗かせる。ストイックな性格も目立ってきた。
プロ1年目の頃、彼がこんな話をしていたのを思い出す。
「自分、(中田)翔さんみたいになりたいんですよ。普段の姿はそうじゃなくても、打席ではぐっと相手を睨み返すような雰囲気がある選手。自分の究極の目標です」
その言葉どおり、気の優しい一面を見せる一方でグラウンドでは徐々に雰囲気を醸し出す選手に変わってきた。プロでたくさんの痛みと苦しみを味わったからこそ期する想いがある。人の心を動かすのはある意味、当然だった。