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ネイマールも絶賛したアタランタ。
地方クラブの夢物語は終わらない。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/08/20 20:00
CLで決勝進出したPSGを苦しめたアタランタ。ネイマールもそのチーム完成度を絶賛するほどだった。
攻めまくってきたチームが耐える。
それは、意外な光景だった。
今季セリエA最多の98得点、どんな試合でも攻めて、攻めて、攻めまくって勝利をもぎ取ってきたアタランタが、守りに入ったのだ。攻めることをアイデンティティにしているはずの男たちが、ひたすら自陣に引いて耐えていた。
“このまま試合が終わったなら、マン・オブ・ザ・マッチは、デローンにあげたいな”
試合記録用のペンに汗を滲ませながら、僕はそう考えていた。
オランダの片田舎で生まれた、いかつい顎の仕事人。一昨年から代表に定着 するようになり、昨夏のネイションズリーグ決勝戦にも出たけれど、国際的知名度は中盤の隣にいるデヨング(バルセロナ)や後ろにいるファンダイク(リバプール)に遠く及ばない。
デローンは3年前にアタランタに出戻って以来、指揮官が絶対の信頼を置く"働き蜂"になった。今シーズンの出場45試合は、最多46試合の主将ゴメスに次いで2番目に多い 。年俸は75万ユーロ。やはり50万ユーロしかもらっていない 隣のフロイラーとつないで、はたいて、潰す。守備陣の前で壁になる。まるで兄弟かと見紛う彼らはセリエAで最高に呼吸ピタリの中盤コンビだ。
ネイマールに喰らいついたデローン。
サッカー人生の大一番で、デローンはネイマールに喰らいついた。
一度抜かれても、次のマッチアップではユニホームをパパッと小刻みにつかんで倒した。50分に警告を受けても怯まない。ボールだけを見て、ブラジル代表のエースをクリーンに地面へ這い蹲らせる。
「多くのサッカー選手にとってCL準々決勝でプレーできること自体、夢みたいなものだ」
デローンは前日会見で、CLという舞台への感傷とチームの秘密を少しだけ明かした。
「別段、うちが他のチームより多く走っているわけじゃないんだ。でも、できるだけ長く相手陣内で自分たちがボールを持ってプレーし続ける。相手がボールをロストした瞬間、うちは絶対に取りにいくから、それでうちの選手たちがグラウンド中にいるような印象を与えるんだろう。そうやって1年1年自信をつけて、イタリア内のビッグクラブ相手でも渡り合えるようになった」