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拍手はJリーグ観戦を豊かにする。
FC東京の好プレーに響いた効用とは。 

text by

飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byJ.LEAGUE

posted2020/07/21 11:40

拍手はJリーグ観戦を豊かにする。FC東京の好プレーに響いた効用とは。<Number Web> photograph by J.LEAGUE

声でエールが送れないならば、ぜひ拍手を。その行動はきっとフットボーラーを勇気づけるはずだ。

拍手に思い出す稲本&戸田の言葉。

 好プレーが生まれるたびに拍手が起きる。しかもそれが、ゴール裏、メインスタンド、バックスタンド、2階席とまんべんなく発生するから、スタジアム全体が拍手に包まれる感覚になる。この心地の良さは、コロナ禍以前では、活躍した選手が途中交代する際にスタンディングオベーションで讃えるときくらいしか味わったことのないものだった。

 感染対策で声を出せないという制限のなか、サポーターとして自分の気持ちをどう表現するか。その答えが、気持ちを込めて拍手を送る、という行為だった。なんの制限もないときと比べて、明らかに拍手の数は多かった。

 味の素スタジアムに響く拍手を耳にして思い出したのは、以前に聞いた稲本潤一と戸田和幸の言葉である。

 イングランドでのプレー経験のあるふたりにプレミアリーグの魅力を訊ねると、奇しくも同じ答えが返ってきた。

「トルコ、ドイツ、フランスでもプレーしましたけど、雰囲気はプレミアが一番。厳しく寄せてバックパスさせたら拍手が湧くんですけど、それって観客の目が肥えている証。あそこでやれて幸せでした」(稲本)

「あの国ではサッカー選手が凄くリスペクトされています。客席とピッチが近いのも信頼関係があるから。タックルひとつに拍手が降り注ぐのも、本当に堪らない。選手にとって理想的な場所だと思いますね」(戸田)

ルーキー中村帆高を鼓舞する拍手。

 その意味で、この日の拍手で一番良かったのは83分50秒、途中出場したばかりのルーキー、中村帆高に送られたものだ。

 82分40秒からの約1分間に3回連続して相手のドリブルやパスをカットした中村は最後、マイボールにしようとボールを追いかけたものの、タッチを割ってしまったことを悔しがった。

 その闘志あふれるプレーに、諦めない姿に注がれた拍手からは、「ナイスプレー!」「ナイスファイト!」といった声なき想いが、確かに伝わってきた。

 だから、声援を送れず、選手をサポートできないと思い込んでいる人には、声を大にして言いたい。

 その拍手に込めた想いは、選手にもビンビン伝わるものですよ、と。

【次ページ】 拍手に感情を込めて表現を――。

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