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世界サッカー史上最高の無観客試合だろ!
7月4日の浦和と82歳の「死んでもいい」。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph by(c)A.KONDO/URAWA REDS
posted2020/07/15 15:00
荘厳な美しさを見せていた、7月4日の無観客試合となった埼玉スタジアム2002。
8日前と同じ道を、同じ時間に歩いていた。
と、最初はここで話を終えるはずだったのだけれど、そこからさらに8日、話はもう少しだけ続く。
僕は8日前と同じ道をほぼ同じ時間、埼玉スタジアムに向けて歩いていた。再開後3戦目、この日からJリーグの決定によってスタジアムには5千人のサポーター(ホームチームのみ)が入場できることになっていた。
僕の目の前には、背番号30、数日前のアウェー仙台戦でチーム通算100ゴールを決めた興梠慎三のレプリカを着た、50歳くらいの男性がいた。
「試合を見られて、それで死んじゃうなら、本望」
スタジアムに着くと、先週のデコレーションからデザインの部分は消え、赤と白と黒のビニールで覆われたスタンドの中、ふた席おきに元々の座席であるブルーの客席が幾何学的に設けられていた。5千人の観客はここに座って、あくまでも静かに観戦することになる。
試合前、スタンドで写真を撮っていると、旧知のサポーター何人かと再会した。
この日を心待ちにしていました、と40歳くらいの女性サポ。
スタジアムに行くって言っても、家族の誰も心配してくれませんでした、と60歳くらいの男性サポ。
北ゴール裏では某雑誌社で営業マンとして活躍する友人とばったり出会った。
コロナに感染するリスクとレッズの試合を見損ねるリスク、どっちがより大きいんだろうね、というテーマを僕が振ると、彼は、いきなり3席向こうの席に座っていた女性を指差し、うちの母、82歳です、と笑う。
僕は彼女に軽く頭を下げて、こんにちは、と言う。
彼女は僕に頭を軽く下げ返し、優しい微笑みとともにこう答える。
わたし、レッズの試合を見られて、それで死んじゃうなら、本望です!
いやいや、そこまでの話じゃないんですよ、笑。