JリーグPRESSBACK NUMBER
世界サッカー史上最高の無観客試合だろ!
7月4日の浦和と82歳の「死んでもいい」。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph by(c)A.KONDO/URAWA REDS
posted2020/07/15 15:00
荘厳な美しさを見せていた、7月4日の無観客試合となった埼玉スタジアム2002。
無観客試合の虚しさを知る1人として。
あの日はとてもよく晴れていた。
空は青く、空気は澄んでいた。
この惑星では全てが順調に運んでいるように見えた。
浦和レッズとそこに関わる人間を除いて。
スタジアムの上空にはヘリコプターが5機ホバリングしていて、試合中ずっとその耳障りな音が無人のスタンドに響き続けていた。
もうこんなことは二度とごめんだ、試合後、選手も関係者もそしてサポーターも、浦和レッズに関わる全ての人間は無観客試合の虚しさを悟った(はずだ)。
それから6年後、まさかまたこのスタジアムで無観客試合を撮ることになるとは、想像だにしていなかった。
幸運にも、というと叱られるだろうけど、今度の原因は世間知らずのレッズサポではなく、いったい何色のユニフォームを着ているのかもわからない100ナノメートルほどのウイルスというやつだった。
またあの殺風景なスタンドをバックにして写真を撮らなきゃいけないのか。そう考えると、なんだか気が滅入った。
とりあえずサッカーが戻ってきてよかったじゃないか。
そう気持ちを鼓舞しても、次の瞬間に思い浮かべるのは埼玉スタジアムの全く愛想のない青色の座席の光景だった(それにしてもなんで日本のスタジアムの座席ってどこもああ味気ない色なんだろうか)。
無観客のスタンドが写る試合写真って……。
僕の思考は基本的にカメラマンのそれである。
どんなにかっこいいプレー写真を撮っても、その背景に誰もいないスタンド、どう贔屓目に表現しても全く美しくない。誰もいない客席が写っている限り、それはただの練習試合の写真にしか見えないし、退屈な写真に価値はない。
逆に、どんなにつまらない練習試合でも、もしその後ろに何万というサポーターがいて、声を限りに応援していれば、それはただの写真を超えた価値を持つ(そんな練習試合なんてそもそもないんだけどね)。
コロナの野郎、ったくふざけやがって……。
いつもの3倍くらいカメラバッグを重く感じながら、僕はスタジアムのメディア受付で検温を済まし(35度9分だった)、2週間分の体温と体調を記入した問診票を提出すると、スタジアム内の階段を一度下り、一度上ってピッチレベルに出た。