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世界サッカー史上最高の無観客試合だろ!
7月4日の浦和と82歳の「死んでもいい」。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph by(c)A.KONDO/URAWA REDS
posted2020/07/15 15:00
荘厳な美しさを見せていた、7月4日の無観客試合となった埼玉スタジアム2002。
36年間のカメラマン人生で3本指に入る光景。
視界が開ける。
僕は息を飲み、二、三度瞬きをし、数秒立ち尽くした。
なんだよこれ!
36年ほどのカメラマン人生で、テーマをサッカーに限って語ると、網膜の奥に深く刻まれた光景が2つある。
1つめは'80年代後半、アルゼンチンのあるスタジアムでインデペンディエンテというクラブのサポーターたちが選手入場の際にスタンドから投げ放ったとんでもない量の紙吹雪。
2つ目は'90年代前半、ギリシアのアテネで見たパナシナイコス対オリンピアコス戦(アテネダービーだ)で、試合開始1時間前、興奮してオリンピアコスのサポーターが座席に火をつけ、比喩としての炎上ではなく、本当に目の前の観客席が燃え上がってしまったこと。
この日、埼スタで目にした光景は、3つめのそれとなった。
世界サッカー史上最高の無観客試合じゃね?
2020年7月4日、浦和レッズというクラブがJリーグ再開に臨んで、チームを鼓舞するために用意したのは、完璧なデコレーションを施した6万4000人収容のスタンドだった。
シートは全てチームカラーである赤と黒と白のビニールで覆われ、北側のゴール裏には優勝シャーレを掲げた二本の腕と2020という数字のデザイン、南側のゴール裏にはWE STAND BESIDE YOUの文字、正面スタンドは赤色を基調に彩られその中央にはTHIS IS URAWAと白抜きで記された赤いフラッグ、そしてバックスタンドにはチームソングの歌詞が記された長い横断幕、何百本というフラッグと何百本というタオルマフラー。
なんとか上手に説明したいのだけれど、あの日の埼スタの光景はなかなか言葉では伝わらないし、写真で見せても実際の半分くらいしか伝わっていないような気がする。
僕は目の前に広がる光景をレンズの中に捉えながら、1人で笑っていた。
どこの世界に、無観客試合のスタンドをここまでのクオリティで仕上げるやつがいるんだよ。これって世界サッカー史上最高の無観客試合じゃね?