猛牛のささやきBACK NUMBER
チームに安心感を与えるショート。
オリックス安達了一に芽生えた欲。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2020/06/26 11:00
プロ9年目を迎えた安達了一。球界トップクラスの守備力には西村監督も信頼を置く。
「病気をして、考え方が変わった」
昨年はサードで出場することもあったが、今年はキャンプで西村徳文監督から「ショートを守らせる」と言われており、意気に感じてもいた。
昨年はキャンプからサードの練習もしていたが、ショートへの強いこだわりをたびたび口にしていた。オープン戦が始まった昨年3月、安達はこう語っていた。
「ショートにこだわりはやっぱりありますよ。ショートを守れなくなったら自分は引退しようかなと思っています。他のところを守りたいと思わない。ショートを守れなくなったらあっち、というふうに、幅を広げたいとは思わないので。
プロに入って最初は、試合に出られればいいや、どこでも頑張る、みたいな感じでした。でも病気をして、考え方が変わりました。だってもう、長くはできないと思ってるんで」
プロ4年目だった2015年のシーズン後、安達は腹痛など体調の異変を感じるようになり、2016年1月、潰瘍性大腸炎と診断された。潰瘍性大腸炎は、厚生労働省指定の難病である。
それでも安達はグラウンドに戻ってきた。約20日間の入院生活のあと、懸命に体力の回復に努め、その年4月12日に一軍に復帰。病と付き合いながらのプロ生活が始まった。食生活に細心の注意を払い、疲労をためないよう十分な睡眠をとる。それでも、厳しい暑さが襲う夏場は、疲労を隠せない時もあった。病気が再燃したこともある。
“長くやりたい”が再び芽生えた。
その病が、安達の考え方を変えたのだと、昨年、語っていた。
「以前は、長くやりたいと思っていましたけど、もう、さすがに長くはできないんで。(2018年オフに)3年契約をしましたけど、それで終わりぐらいの気持ちでやっています」
ポジションの幅を広げて息の長いプロ生活を送るよりも、限られた時間を、やりがいを感じるショートで、納得のいくかたちで戦い抜きたい。壮絶な覚悟がにじんだ。
このことについて、今年、改めて聞いてみると、安達の答えは少し違っていた。ショートへのこだわりは変わらないが、“長くやりたい”という思いが再び芽生えていた。
「子供ができたので、子供に見せたいというのがありますね。(プロ野球選手として)やっていたということだけでも、記憶に残るように」
ちょうど昨年3月に話を聞いた直後に、第1子の男の子が誕生した。我が子の成長を見守るうちに、安達に新たな活力と欲が生まれた。