フランス・フットボール通信BACK NUMBER
アフガン出身、父暗殺、そして医者に。
偉大な女性サッカー選手の数奇な人生。
text by
フランク・シモンFrank Simon
photograph byCharlotte Robin/L'Equipe
posted2020/05/12 19:00
ナディア・ナディムは、PSGを去る前に女子CLのタイトルを獲ることを宣言している。同時にパリで医者になることも。
アフガンから脱出し、デンマークの難民キャンプへ。
その父親がタリバンに暗殺されたとき、彼女は12歳になっていた。
母親のハミダは、5人の娘を連れてアフガニスタンを出ることを決意する。最初はロンドンへの移住を考えたが、最終的に行きついたのはデンマークのアルボルグにある難民キャンプだった。
新たな人生の始まり。千一夜をかけて語りつくす物語の始まりでもあった。
「もちろん話したくないときもある。でも私が自分の過去をオープンに語るのは、それが他の人たちにポジティブな影響を与え得ると信じているから。難民への意識を高める契機にもなるだろうから」
2年前に彼女は、デンマークで自伝を出版した。それは2009年に男女を通じて初めて帰化人(国籍は2008年に取得)としてデンマーク代表に選ばれて以来、ずっと在籍し続ける代表チームがEURO2017決勝に進み、彼女のゴールで先制しながら地元オランダに逆転負けを喫したちょうど1年後のことであった。
「ここにやって来たのは運命だったと思った」
彼女はその著書を、PSGのチームメイトたちにも贈りたいという。
「PSGの助力を得て今は翻訳作業が行われているところで、夏には出版されることになっている。チームメイトたちとは本当に親しい関係にあるから、本を読むことで私が本当はどんな人間であるかを彼女たちに分かってもらいたい」
マリーアントワネット・カトコ(21歳。フランス代表FW。PSGでは公式戦100試合に出場し90得点)やクリスチャン・エンドレル(28歳。チリ代表GK)、ジョーダン・ウイテマ(19歳。カナダ代表FW)らも、どんな劇的な環境のなかでチームメイトでも友人でもあるナディムがサッカーを好きになっていったかを理解するだろう。
「デンマークに辿り着いて女の子たちがサッカーしているのを見たとき、ここにやって来たのは運命だったと思った。私たちもその輪に加わって……私は5人姉妹の次女だった。姉もデンマークU19代表に選ばれたストライカーだったし、末の妹はGKをやっていた。姉は今は医師になっていて、妹はサッカーをやめてボクシングに転向した。デンマークとスカンジナビアのチャンピオンになったわ」