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横浜フリューゲルス、最後の2カ月。
楢崎正剛「優勝より寂しさの方が」
text by
川端康生Yasuo Kawabata
photograph byShinichi Yamada/AFLO SPORT
posted2020/05/02 08:00
天皇杯で有終の美を飾った横浜フリューゲルス。喜びと切なさが交錯する中、若き日の遠藤保仁、三浦淳宏らの姿も懐かしい。
「誰でもいい、助けてくれ!」
「Jリーグ、企業、誰でもいい、助けてくれ!」
三ツ沢球技場にエンゲルス監督の悲痛な叫びが響いたのは11月7日。この日がフリューゲルスにとってホーム最終戦。アビスパ福岡を下した試合後のセレモニーで、そう訴えたのだ。
エンゲルス監督の後、マイクを握った全日空スポーツ社長は「フリューゲルスは新チームで生き続けます」と言って、盛大なブーイングを受けることになる。あまりに場違いな挨拶だった。
スタジアムの周囲ではサポーターたちが署名集めに励んでいた。合併発表直後から全日空本社やJリーグに合併の白紙撤回を訴えるのと並行して、競技場や横浜駅周辺で署名活動を始めていたのだ。
選手も参加したこの活動には、ライバルチームのサポーターも協力していた。それぞれのスタジアムでチーム存続を求める署名が集められていた。
そういえば日本代表の試合で、ウルトラスのゴール裏にフリューゲルスのビッグフラッグが掲げられたこともあった。支援の輪は横浜を越えて、サッカー界全体に広がっていた。
選手、サポーターそれぞれの焦り。
サポーターだけではない。翌週のシーズン最終節では、Jリーグすべての会場で、選手たち自らがフリューゲルスの旗を振った。彼らもまたフリューゲルス(とマリノス)の選手たちを心配していたのだ。合併に伴い、来季の働き場を失う選手が出る懸念があったからだ。
折しもJリーグでは「プロ選手枠25人」の新制度が導入されるタイミングでもあった。チームの消滅はすべてのJリーガーにとっての問題でもあった。
その最終節でもフリューゲルスはコンサドーレ札幌をアウェイで破った。合併発表後、無敗でシーズンを終えたのだ。
だが、そんな快進撃を喜ぶ一方で、サポーターたちには焦りも見え始めていた。リーグ戦が終了したことで、選手の去就が取り沙汰されるようになったからである。フリューゲルスの6選手にマリノスからの獲得オファーが届いているとも報じられた。彼らに残された時間はわずかしかなさそうだった。
そして11月16日、チーム存続を求める嘆願書を携えてJリーグと全日空、そして横浜市役所を訪れた。全日空には30万筆を超える署名も提出した。最後のお願い、そんな思いだっただろう。