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日韓W杯後、中村俊輔のセリエ挑戦。
あの夏の南イタリアで感じた焦熱。
text by
杉山孝Takashi Sugiyama
photograph byGetty Images
posted2020/05/07 11:50
日韓W杯落選を経てのレッジーナ加入。ここから中村俊輔は大きな成長曲線を描いていく。
レコバと俊輔の左足がうなる。
だが、開始6分で魅せたのは、インテルのレフティだ。ハーフウェーライン手前でレコバが左足を振るうと、ボックス内の合流地点へビエリが疾走する。ランデブーを果たしたイタリア代表FWは躊躇なく落下直前のボールを空中で叩き、逆サイドのゴールネットを揺らした。喜びもしない姿が、「格」の違いを示しているようだった。
ひいき目なのか、メモにはレッジーナの攻撃が多く残る。15分、ついに初シュート。46分、ようやく初CKを獲得。後半に入っても好機の手前までいくのだが、物足りなさは変わらない。FKの好機にも、俊輔の左足からの弾道はわずかにゴールを外れ、フリオ・セサルはクロスバーを叩いた。
奮闘、健闘しても結果には届かない。最後にものをいうのは、やはり質なのか。サッカーによくある話の通りに締めくくられるかと思ったが、物語は終わらなかった。
ノートの記録によれば90分、自陣からインテルゴール前へのロングボールに反応したFWがカンナバーロに倒される。脅迫的な声援が影響したのかは分からないが、主審が笛を吹いた。「ミーティングで決まっていたから」とPKスポットにボールを置いた俊輔が冷静にキックを成功させると、スタジアムが歓喜に震えた。比喩ではなく、本当にスタンドが揺れていた。
安っぽいストーリーを覆したのは……。
インテル相手に92分に追いついた、堂々の勝ち点1。そんな原稿が頭に浮かんでいたが、安っぽいストーリーはすぐさまゴミ箱行きとなった。
ベンチスタートだったインテルの新背番号9、エルナン・クレスポが縦パスに抜け出し、右に開いてDFを引きつけると、スペースを見逃さずに飛び込んできたのはレコバ。ノートのメモでは、92分37秒。オレステ・グラニッロは、悲痛な叫びに包まれた。
スタジアムには不満とも不穏とも、何とも言えない空気が充満していた。劇的に勝利を持ち帰ったインテルのティフォージ御一行は、警官隊による“花道”に守られながら専用バスへと速足で逃げ込んでいった。