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最近バルサは優等生すぎないか。
ライカールト時代の奔放な楽しさ。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/04/30 12:00
ロナウジーニョ、デコ、プジョル、ラーション……久々のCL制覇達成時のバルサは、かなりのカオスなチームだった。
そもそも昔は粗野な感じだった。
そもそもバルサは美しさとは対極の、粗野なイメージが付きまとうクラブだった。規律ではなくカオスに支配され、ピッチ上では野武士たちが己の力を誇示し、競い合う。それはクライフが築き上げた“ドリームチーム”も例外ではなく、とりわけフリスト・ストイチコフとロマーリオの悪童コンビは、いかなるときも我が道を行った。
また、ルイス・ファンハールがオレンジ色のペンキを振りまくように“オランダ化”を進めた'90年代後半あたりの混乱ぶりも、ペップ以降のバルサしか知らない若いファンにはちょっと信じがたいかもしれない。
けれど、出来の悪い子ほど可愛いとの言葉もある。毎週末のように監督や会長の辞任を求める白いハンカチがカンプノウのスタンドで打ち振られるなかでも、強烈な個のパワーによって、ときどき思い出したかのように最上級のスペクタクルがもたらされるから、そのギャップがかえって愛おしく、離れられなくなる。
フィーゴの裏切り、リバウド、暗黒。
それは、例えば“元祖フェノーメノ”ロナウドと“リトルブッダ”ことイバン・デラペーニャのホットラインであり、のちに“ユダ”となるルイス・フィーゴの重厚かつシャープなドリブルであり、そしてファンハールと敵対しながら、移籍1年目の1997-98シーズンにMVP級の活躍でチームに2冠(ラ・リーガとコパ・デル・レイ)をもたらしたリバウドの“魔法の左足”であっただろう。
リバウドで忘れがたいのは、やはり2000-01シーズンのCL出場権を懸けたバレンシアとの最終節。2-2で迎えた終了間際の劇的なオーバーヘッドシュートは、いまもバルセロニスタの間で語り継がれる伝説だ。
さらに、シャビやカルレス・プジョル、アンドレス・イニエスタといった優秀なカンテラーノがトップ昇格を果たしたのも、この暗黒の10年にもたらされた僥倖である。明るい未来を予感させる彼らの存在もまた、バルサへの情を断ち切れない大きな理由だった。
ペップ時代のような一糸乱れぬ集団の美しさはない。けれどチームには圧倒的なパーソナリティーを備えたモンスターが何人かいて、アップダウンの激しい不安定な戦いぶりに、ときにイライラさせられながらも、どこか憎み切れない魅力があったのが、'90年代後半から'00年代初頭にかけてのバルサだったように思う。