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五輪延期は日本スケートボード界に
とっては明るい材料!? その理由とは。
text by
吉田佳央Yoshio Yoshida
photograph byYoshio Yoshida
posted2020/04/29 08:00
ライバルの堀米雄斗が見つめる先でトリックをメイクするナイジャ・ヒューストン。彼は堀米より4歳年上になるが、1年後の伸びしろは果たして……。
では、追われる立場の選手たちは?
ここまでは日本の期待の若手を紹介してきた。
しかし、今後世界を席巻しそうな10代のスター選手候補は、何も日本に限ったことではない。
世界を見渡すとこの1年でグンと伸びて、日本勢の強力なライバルになるであろう選手も当然のことながら存在する。
そう言ったライバルの存在を危惧しているのが、現世界王者の岡本碧優のコーチを務める笹岡拳道だ。
「去年は碧優が世界を舞台に連勝を重ねたことで女子パークの世界レベルを引き上げました。代名詞の540はもちろん、キックフリップインディー(空中でスケートボードを縦に一回転させて、それを後ろ側の手でお腹側から掴むトリック)も話題になったことで、他のライダーが目指す指標を創り上げてしまったんです。
しかも自分たちはトリックの構成も今年の夏に標準を合わせてやってきたので、碧優にとっては1年の延期が不利に働くのではないかと懸念しています。
それにWORLD SKATEからも今までのポイントをどういうふうに処理するのか、まだ正式な発表がないのでモチベーションの面でも心配ですね。そこは置かれた立場は違いますけど、男子パークで国内トップに立つ(笹岡)建介もモチベーションのことは言っていました。
やはり1年延びたことをチャンスだと捉えて必死にやれる選手、立場で言うなら追いかける側の選手の方が有利に働きやすいじゃないかと。
ただ建介に関してはここ数年世界経験も存分に積んで、去年1年間でかなり成長しました。それにまだ先があってそこに追いつかなければいけません。モチベーションを保つのは大変ではありますが、このまま成長していけば、世界との差は縮まるかなと思っています。
ただ、言い換えればそれだけ下からの突き上げがすごいということでもあります。女子パークでは、多くのスケーターが去年の碧優の再現を狙っているでしょう」
このことからライバルになるであろう海外勢に目を配ると、確かに可能性を感じる選手はいる。
「3カ月に1つのペースで大技を取得する必要が」
現世界ランク3位のスカイ・ブラウンなどはその筆頭と言えるのではないか。
彼女はイギリス人の父と日本人の母の元に生まれ、宮崎県出身でもあることから日本代表も選択できたが、イギリス代表での出場を明言したことで、国を背負ってメダルを争うオリンピックでは最大のライバルになりうる存在だ。
前述のキックフリップインディーも、すでに昨年の時点で練習では成功させていることからトップを狙えるスキルも持ち合わせているし、年齢も岡本碧優よりも2歳若い11歳というのだから、体格も含めて1年間で劇的に成長する可能性も十分にある。
ただし、年齢だけで言うなら日本の開心那も同じ11歳なので、同様の伸びしろに期待といったところか。
今までの結果だけで言えば、女子パークは岡本碧優が絶対王者とも言える実力を示しているが、その分標的にされやすいこともまた事実。
では、この岡本碧優包囲網とも言える状態を彼女はどのように乗り越えようとしているのだろうか。
「過去の流れを辿ると、今年は今まで以上に世界のスキルがグンと伸びてくるでしょう。去年は540とキックフリップインディーの2トリックで危なげなく逃げ切ることができましたが、今年はその倍は必要なんじゃないかと思っています。そうなると3カ月に1つのペースで大技を取得するような練習になるんですが、コンテストスケジュールが白紙になったことでこっちも練習する時間が増えました。だからこそ、コンテストが開催されない今がスキルアップの大きなチャンスでもあります。
もちろん新しい技にはケガのリスクがつきまといますし、今は新型コロナウイルスの感染拡大の不安もあります。そこは状況を見ながら十分に注意しつつ、ベストを尽くしていきたいと思っています」
と笹岡は語る。
以上のようにスキルが飛躍的に上昇している女子パークの現状を踏まえれば、今は絶対王者と呼べる活躍を見せている岡本碧優も安泰とは言えない。
日本人の躍進に期待したいところではあるが、どう転ぶのかは今後の取り組み次第とも言える。