オリンピックへの道BACK NUMBER
笑顔、闘志、凍える記者にカイロ。
上村愛子がモーグル第一人者の理由。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2020/04/26 11:40
2014年3月27日、現役最後の試合となった全日本選手権の試合後、後輩達から胴上げをされる上村。
置かれた立場から逃れようとしなかった。
期待を背負い、それを投げ出さず、自身の夢と両立させながら進んできた競技人生であった。最後の大会となった全日本選手権での、選手や関係者、観客の、限りない惜別から来る拍手、向けられる笑顔も、上村が第一人者として背負ってきた重みと果たしてきた責任を知るからであるようだった。
自覚していた、していないにかかわらず、おのずと、上村はエースとして、周囲を背負い(もちろん自身の夢を追って)、責任を果たしてきた。置かれた立場から逃れようとしなかった。
だからこそ、やりきった人ならではの、笑顔があった。
「本当にすっきりした気持ち」というほど努力を尽くした人であった。当人にとっては自然なことかもしれないが、自身の夢を追って真摯に努力し、知らずと負うことになった責任から逃れようとせずに全うした。一流の気配りと責任感を持つ人であった。
エースと呼ばれるに値する存在であった足跡は、今も損なわれることはない。むしろ、スポーツに限らず、困難な状況にある今こそ、鮮明によみがえる。置かれた立場を引き受けるその姿勢は尊くもある。
引退したあと、メディアで選手の活躍を伝え、あるいは取材している姿をみかける。
そこでも謙虚に、相手のよさを素直に伝えようとする姿がある。選手の頃と変わらぬ姿がある。