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錦織、ジョコ、フェデラーを口説き、
ユニクロとテニスを繋いだ坂本正秀。
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byHiroshi Sato
posted2020/03/18 11:40
錦織圭、ユニクロ柳井社長、フェデラー。彼らが一緒に笑顔で写真に収まるのは坂本正秀の粉骨砕身あってこそだ。
フェデラー陣営からの質問攻め。
今回は本人までたどり着いたその先で、坂本がフェデラーサイドに行なったことは、「徹底的な話し込み」だったという。
フェデラーは22歳にして基金を立ち上げ、多くのチャリティイベントを行ない、さらに近年では“レーバー・カップ”という超一流選手を集めた団体戦まで企画・運営するビジネスマンでもある。だからこそフェデラー陣営は、会合の席で坂本を質問攻めにした。
「ユニクロのブランドコンセプトは何か?」
「世界の売上や店舗数は?」
時には「東京の人口は何人?」など、質問はテニスや会社のことを離れて多岐に渡る。そして彼らが何より熱心に問うたのは、「ユニクロは自分と契約することで、何をしてくれるのか?」だった。
そのフェデラーたちと交渉し納得してもらうには、こちらも生半可な知識と情熱では太刀打ちできない。
責務と重圧が双肩に掛かるその席で、坂本が最も力を込めて説いたのは、「あなたはテニスプレーヤーとしてはいずれ引退するが、人生からは引退しない。我々はLifeWear(ライフウェア)というコンセプトを掲げているので、テニスコートだけでなく人生そのものをサポートしていきます」という哲学だ。そしてニック・ボロテリー・アカデミーで過ごした自身の経歴等も話した上で、「私を信じてほしい」と繰り返す。
さらに坂本は、本人を含めたフェデラーサイドとの最終ミーティングの席に柳井をテレビ電話で繋ぎ、「Making the world better place(共に、世界をより良い場所にしよう)」のメッセージも伝えた。
それら度重なる話し合いの末に、2018年、契約交渉は合意に達する。後にフェデラーから「人生をサポートしていく、という言葉が響いた」と聞いた時には、涙がこみ上げるほどの喜びを覚えた。
旧友から「お前ならできると思った!」
さらにスマートフォンを開けば、フェデラーの友人でもあるアカデミー時代の旧友ハースたちから、「やったなヒデ! お前ならできると思った」のメッセージが届く。少年時代に培ったサバイバル精神、そして必死に努力すれば別のところでも道は開けるという信念が、8年越しのフェデラー獲得の原点にあった。その成果を祝福してくれる仲間の存在に、「自分が得た最大の財産は友人たちだ」と、しみじみ感じ入るのだと坂本は言う。
掛け替えのない宝を与えてくれたテニスに恩返しするためにも、坂本が目指すのは、「テニス界を盛り上げること、テニス界に恩返ししていくこと」。
そして究極的にはフェデラーらと共に、「Making the world better place」――世界をより良くしていくことだ。