テニスPRESSBACK NUMBER
1部屋に3人で宿泊、コーチもシェア…全日本王者・今井慎太郎29歳が明かす“プロテニス選手”の現実「トカゲと一緒に寝たことも(笑)」
posted2022/12/08 17:30
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Akemi Hosaka
今年10月、29歳で全日本選手権を初めて制した今井慎太郎は優勝スピーチでむせび泣いた。観客のまばらな有明コロシアムの光景は、天皇杯を頂く国内最高峰の大会の決勝としてはあまりに寂しかったが、あの会場に足を運んでいたくらいのファンなら、今井の涙の意味を理解したに違いない。贈られる拍手は、盛大ではないがやさしかった。湘南工科大附属高時代に初出場、早稲田大学3年のときからベスト16が5年続き、その後ベスト8、ベスト4、準優勝と一歩ずつ階段を登ってきた。
僕は爆発力もないし、器用なタイプでもない
「自分でも、人前であんなに泣くかってちょっと引くくらいでした(笑)。全日本はずっとほしいタイトルでしたけど、僕は爆発力もないし、器用なタイプでもないので時間がかかった。全日本にはもう出るのをやめて、ATPランキングを上げることに専念しようと思ったときもありました」
過去のチャンピオンたちの多くは全日本のタイトルについて、世界で戦うための重要な通過点であり、自信になり、力になるものだと語った。今井があきらめなかったのも、その先の世界を今よりもっと輝かせたかったからだろう。
優勝しても賞金は20万円程度
大学を卒業するまで海外に出たことがなく、プロを意識したのも大学3年生になる頃だった。保健体育の教師になるつもりで教職免許もとったというテニスプロには珍しいタイプだ。海外経験の遅れを取り戻すように、2016年4月のプロ転向後すぐに、インド、香港、韓国、ベトナム、インドネシア、中国と、アジアを中心にITFサーキットを精力的にまわった。1年で2大会を優勝し、年の始めに1021位タイだったランキングは500位を切るところまでいった。
このレベルのツアー生活は厳しい。グランドスラムを頂点とするピラミッドの底辺であるITFサーキットは、優勝しても賞金は円安の今のレートに換算して20万円程度。チャレンジャー大会になれば待遇は随分よくなるが、ITFサーキットでは宿代も足代もすべて自分でまかなわなくてはならない。所属先などスポンサーからサポートを受けている選手は多いが、かかった経費が全て支払われるわけではない。ひとつの部屋に3人で宿泊したり、コーチもシェアしたりして助け合った。経済的な苦労だけでなく、会場やホテルの環境も国によってはひどいものだ。