球体とリズムBACK NUMBER
ファンダイクほど完璧ではないが、
南野拓実のリバプール初陣は上々だ。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2020/01/07 11:40
対戦相手エバートンは明らかに本気だった。今後もタフな相手が続く中で南野拓実はどれだけインパクトを残せるか。
ニューカマーへのパスは減った。
しかし、稀な出番を得た周囲の若者たちは自らのアピールに躍起になり、タイミングやコースがあっても、新入りの背番号18にパスを出そうとしない。本来なら、この状況でCFを任されるはずのオリジは新参者にそのポジションを譲り、左ウイングに回っている。胸中は穏やかではなかったかもしれない。
ボールがこなければ、フィルミーノのように連携で崩すことも、クロップ監督が讃える「狭い場所でのボールコントロール」を見せることもできない。
南野は多くのシーンで両手を下に広げてボールを欲しがったが、オリジやウィリアムスらは強引なフィニッシュに持ち込むばかり。特に南野が34分の絶好機を逃してからは、このニューカマーへのパスを選択する仲間が減っていった。
そして70分に、南野はアレックス・オクスレイド・チェンバレンと交代でピッチを後に。オリジを前線の中央、中盤のカーティス・ジョーンズを左ウイングに動かすと、リバプールの流動性は高まり、71分には18歳のジョーンズが鮮烈なミドルを右のトップコーナーに収め、これが決勝点となった。
12月下旬に就任した百戦錬磨のカルロ・アンチェロッティ新監督率いる、一軍のエバートンを見事に破ったわけだが、この勝利に南野の直接的な貢献は少なかったように思える。最前線のアタッカーとして、当たり損ないのヘディングによるシュート1本はちょっと寂しい。
クロップ監督の交代策に見える期待。
しかしクロップ監督の見方は異なる。
「スーパーだ。際立っていたよ」と試合後の記者会見で南野の印象を問われた指揮官は、白い歯をこぼしながら話した。
「まさに我々が欲しかった選手だ。新天地での最初の試合、しかも今日のチームは全体練習を2回しかしていない。そんな状況でも、あれほどフットボールの理解力やスキル、姿勢を示したのだ。優れた選手だよ。また様々なシーンで、先陣を切ってプレスをかけてくれたことにも好感が持てる。疲れているようには見えなかったが、少しゆとりを持たせたかったので、交代させることにしたんだ」