マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
野球人生を切り開くオーディション。
大学代表選考会で光ったプロ注たち。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/12/15 09:05
謙虚であることと自己アピールをすること。野球選手に求められる要素の中には、矛盾したものもあるのだ。
「サニブラウンに勝った男」の野球力。
前編で、「衝撃の出現」をレポートした獨協大・並木秀尊外野手。彼が、おそらく熱く意識していたであろう相手が、中央大・五十幡亮汰外野手(3年・172cm67kg・右投左打・佐野日大高)と見ている。
中学時代の陸上全国大会で、100m、200m走で優勝。「サニブラウンに勝った男」とか言われているが、正直に言えば野球選手というよりは「陸上部からの助っ人」的な雰囲気かなと思っていた。
この松山で、見る目が変わった。
フルカウントから、スライダーに崩されながらしぶとくライト線に運んで三塁打にした“粘着力”。野球が上手くなったし、インパクトに破壊力が出てきた。
ピッチ走法のスピードはもともと圧倒的だが、ダイヤモンドを四角く走る技術と、盗塁のスタートに見せかけるフェイントの上手さ……ここに来て、野球の実戦力がぐんぐん増している。
見え見えのセーフティを三塁正面に転がしておいて楽々一塁セーフの走りには、「足の第一人者」としての意地があった。
キミたちとは、ちょっと違うんだよ。一塁を駆け抜けてベースに戻っていくユニフォーム姿の背中に、そう書いてあるようだった。
これは人生を切り開くオーディション。
野手に比べて、投手の「覇気」はちょっと物足りなかったか。
わずかに、紅白戦3試合で真っ先にマウンドに上がった横浜商科大・藤村哲之(3年・180cm82kg・左投左打・愛工大名電高)と、猛烈な腕の振りからコンスタントに140キロ後半をマークした日本体育大・森博人(3年・177cm80kg・右投右打・豊川高)に、「コンチキショー!」の心意気を感じられた。
みんな、欲がないなぁ……と思う。
選り抜きの選手たちの中でプレーができて、それをネット裏からプロ野球12球団のスカウトたちがジッと目を凝らしている。
こんなチャンスは、またとないのに……。
この合宿は「ジャパン」に選ばれるためのオーディションじゃない。秋の終わりの「松山」に集う精鋭たちにとっては、自らの人生を、自分で切り開くためのオーディション。
もっとそういう場であっても、よかったのかもしれない。