“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
川島永嗣の“リカバリー”に感化。
大迫敬介が目指す「勝たせるGK」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/11/13 11:40
広島で日に日に存在感が増しているGK大迫敬介。東京五輪に向けて着々を歩みを進める。
「ほんのコンマ何秒の差」
「札幌戦の失点は本当に悔しかった。それ以外のシーンでも、『もっとこうしていたら違っていた』と本当に悔やまれることが多かったんです。試合映像で振り返りながら、そういう失点を減らそうと、意識的に取り組むようになった時だったんです。
そのタイミングで永嗣さんのあのセカンドアクションの速さを目の当たりにして、やはり自分に必要なことだと痛感しました。弾き方、弾く場所、それを判断するスピード……。ほんのコンマ何秒の差ですが、そこで大きな差が生まれる。(ブラジルから)帰国して、さらにこだわるようになりました」
それでもまだ試練は続く。帰国後のJ1第22節のガンバ大阪戦。0−0で迎えた89分、右サイドでサイドチェンジを受けたG大阪MF小野瀬康介が切り返しから強烈なミドルシュート。大迫はこれを素晴らしいポジショニングで正面で受けたが、肝心のセーブの際に両手ですくい上げるように対応してしまった。力なく前に落としたことで、そのこぼれ球をMF倉田秋に豪快に蹴り込まれた。
だが、苦い経験はすべてが力になる。この失点をきっかけにより自らへの課題に取り組む熱量は増した。
徐々に見せ始めた課題の克服。
その成果は直近のJリーグでも顕著に見られた。
J1第29節の清水エスパルス戦。開始早々の2分、清水DF松原后のクロスに対し、大迫はしっかりとボールの軌道を見て、ファーサイドに飛び込んできたMF金子翔太のシュートに対応。金子のシュートが大迫より前にいたDFがブロックして、再び金子の足元にボールが収ったことを確認すると、すぐに一歩前に出て距離を詰めながら、ゴールに対して面を作ってシュートコースを消し去った。
金子がシュートを諦め、フリーだったFWドウグラスにパスを出すと、今度はすぐにステップを切り、プレッシャーを掛ける。ドウグラスのシュートがバーの上を大きく超えていくと、大迫は大きく手を叩いた。
「あそこのセカンドアクションは自分の中でも思い通りにスムーズにいったなと思いました。(金子に)ブロッキングから(ドウグラスへ)早いパスを出されたので、すぐに切り替えて、ステップワークがうまくいった。それはいろんな経験をした上で、自分が鍛え上げてきたことだと思ったので、手応えを感じました」
続く川崎フロンターレ戦でも成長の兆しを見せる。大迫はボールをキープする川崎MF大島僚太を見ながらコーチング。ペナルティーエリア内でパスを受けたMF中村憲剛が抜け出したことを確認すると、状態を低くしながら、まず中村のシュートコースを消した。
中村の切り返しが流れたところに、フリーでMF脇坂泰斗がいたが、そこにすぐに体を向けると、至近距離からの右足シュートにも倒れこむことなく左足でブロック。弾いたボールからも目を離さず、こぼれ球に反応したMF阿部浩之のシュートに対し前へステップを切った。先にブロックに入った味方DFに当たって事なきを得たが、大迫は阿部のシュートコースに入っていた。
「日頃の練習が本当に大切。これからも積み重ねないと上には行けません」